お風呂(浴室・浴槽)滑り止め 高齢者、家庭内事故に注意を 多発する転倒・やけど…「焦り」は禁物

9月22日8時0分配信 産経新聞

 高齢者が転倒などでけがをする場所は自宅居室が多く、風呂場の事故は命にかかわる…。国民生活センターと東京消防庁がそれぞれまとめた資料から、改めてこんな実態が浮かんだ。安らぎの場であるべき家庭が、悲劇の場にならないよう、転倒事故などを予防する心がけが欠かせない。(日野稚子)

 国民生活センターは平成15~19年度に、全国20の協力病院から寄せられた高齢者(65歳以上)の6569件の事故情報を分析した。

 発生場所は「敷地内を含む住宅」が63・3%を占めた。うち25・8%が居室で、次いで階段、台所。行動別では29%の人が居室や階段を「歩いていた」。

 けがのきっかけは、滑ったりつまずいたりの「転倒」が37%、「転落」が19・2%。これが75歳以上だと、転倒は約45%に増える。多いのは階段からの転落、床で滑って転倒、トイレから廊下に出た際の転倒だ。「当たり前の場所で当たり前の動作をして転び、とっさに手が出ず病院に行くけがを負う」と、同センター危害情報室の青山陽子室長補佐は話す。

 負傷部位は頭が多いが、「掃除機のコードにつまずき胸部骨折」(67歳女性)や、「こたつ布団につまずいてあおむけに倒れ、腰の骨を折った」(89歳女性)など、転落事故を含めると約26%が入院した。

 高齢者世帯は住宅が古い場合が多く、床や敷居の段差解消などバリアフリー化を「やってもムダ」と放置しがちという。

 死亡事故16件の死因は、やけどが12件と圧倒的で、風呂の湯でのやけどが6件、ろうそく、ガスコンロ、たき火などで着衣が燃えた事故も5件。「風呂でのやけどは全体で25件なので、死亡割合が24%と高い。着衣着火も含め、やけどは深刻化する」と青山さん。

 東京消防庁が平成19年に扱った高齢者の負傷事故も、原因は転倒・転落が85%。場所も約6割が自宅、うち7割が居室だ。「小さな段差や電気コードなどがつまずく原因」と、同庁生活安全課の黒田正行消防司令補は分析する。

 風呂場の事故は、救急搬送した484人中182人が浴槽でおぼれ、うち90人が死亡、74人が意識不明の重体。「発見が早ければ溺死を避けられる場合もあるので、入浴中は家族が定期的に声をかけて確認を」と呼びかける。

 着衣着火事故は18人だけだが、うち3割は調理中で「ガスコンロに近づき胸の付近や袖口から火が入る」と黒田司令補。調理の際は防炎素材のかっぽう着を着たい。

 家庭内でなぜ、けがをするのか。足腰の筋力や、とっさの危険を避ける運動・感覚能力の衰えだけではない。東京都老人総合研究所の高橋龍太郎研究部長は「立ち上がり時、食後、排泄(はいせつ)時、入浴時の4動作は、自律神経の活動変化に伴い、心拍・脈拍が急激に変化しやすい。食欲不振や発熱などの体調不良が絡むと、失神や目まいが起き、転倒事故を誘発する」という。

 自律神経は自分の意思では制御できないが「環境に影響される神経なので、日常生活で人間関係や趣味などに関心を持ち続ければ、4動作での急激な体内変化は小さくなり、体調管理と事故予防につながる」。

 高齢の女性に多いのが「加齢で体の動きが鈍くなったことになじめない中で、失敗しないよううまくやらなければと、気持ちばかりが焦ってしまうこと」(高橋部長)だ。身体機能に問題がない人でも、別のことに気を取られたまま動けば事故を起こしやすいので、焦りは禁物だ。

 東京消防庁扱いの事故は10~3月、特に12、1月の発生が多い。「気温が下がると筋力が落ち、同じ行動でも力が入りにくく転びやすい。さらに厚着だと危険回避行動もしにくい。こたつなど局所暖房より部屋全体の暖房の方が体の動きが滑らかになり、事故予防になる」と高橋部長。

 また住宅の本格バリアフリー化が無理でも「部屋と家具の色調を変えるだけでも効果的。視覚が落ちていても、色の濃淡や明暗で見分けが付くから」という。

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