大名行列の秘密 [著]安藤優一郎

■江戸の経済は参勤交代で回っていた

 大名行列というのは単に大名のおでかけスタイルであって、歴史上重要とかそういうもんじゃないだろう。時代劇のにぎやかし。

 それがちがった。江戸は毎日、おっそろしい数の大名行列がそこらじゅう歩き回り、社会・経済への影響もすこぶる大だったという。

 その実際を徹底解剖しているわけだが、人員構成から人足・家臣の日当、道中購入した日用品、休憩時の茶代、宿代の値切り額まで調べも調べたり、このデータが実に興味深い。途方もないのだ。

 人数はおおむね150~300人(加賀百万石の前田家はなんと4000人だ)。内訳が家臣や人足に加え、料理人、飲み水に漬物石、大工、鷹と鷹匠、替えの駕籠に替えの馬、風呂桶に携帯トイレ等々。なんでそこまで持っていくか。

 江戸までの旅費。藩によって違うが今のお金で2億、3億、紀州徳川家に至っては13億円。1年の江戸の生活費が、これまた藩の年間経費の半分以上という巨額。

 江戸の登城日には二百もの大名が一斉に“出勤”する。想像するのもオソロシイ大混雑。これだけいれば従者目当てに物売りが来る、食い物屋が来る、博打が始まる。ほかにも行列向けの人足派遣業あり、全国の大名情報を満載した便利マニュアルの販売ありで、大名ビジネスが大繁盛。要するに江戸の経済ってのは、大名行列さまさま、大名行列がなくちゃ回らなかったということがわかってくる。

 政治の流れがどうこうより、モノや数字で見ていくと当時の日本の風景、人々のありようが驚くほど鮮やかに浮かび上がってくるのが面白い。大名行列のしち面倒なしきたりや道中起こしたトラブルの数々、財政難で余儀なくされるセコい倹約。それでも大名のプライドがかかったものゆえに、みんな頭をかきむしりながら任務遂行に右往左往していた。人のおかしみがにじみ出る。

 竜馬だ信長だと歴史を動かした英雄の話もいいけれども、こういう歴史の掘り起こし方はたいそう魅力があって、私は好きである。

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