3月2日6時13分配信 河北新報
山形県庄内地方を舞台に納棺師の物語を描いた「おくりびと」が、日本映画で初めてアカデミー賞外国語映画賞を受賞して最初の週末となった28日と1日、映画の世界に触れようと、県内外から多くの観光客がロケ地に足を運んだ。一気に熱を帯びた「おくりびと」ブームで、地元は大いに沸き返っている。
市内中心部で撮影が行われた酒田市では、JR酒田駅構内の観光案内所の女性職員が「ロケ地の問い合わせが激増しました」と対応に大忙し。撮影に協力した地元のNPO法人「酒田ロケーションボックス」が発行し、駅などで無料配布されるロケ地マップも人気を集めている。
本木雅弘さん扮(ふん)する主人公が再就職する「NK(納棺)エージェント」の建物として使われた元日本料理屋「小幡」には、家族連れやカップルらが次々と訪れていた。現在は空き家で中には入れないが、異彩を放つ洋館の外観を楽しんでいた。
酒田市内の知人を訪ね、友人2人と卒業旅行中という神奈川県厚木市の大学4年森健次さん(22)は「まだ(劇中の)看板が残っていて驚いた。周囲も含めて雰囲気がいいですね」と映画の世界に浸っていた。
県内からの見物客も多く、友人ら4人で来た長井市の無職安部孝さん(60)は「風情がある。『天地人』と一緒に、観光地としてどんどん売り出すべきだ」と語った。酒田ロケーションボックス副理事長の佐藤英俊さん(44)は「海外からも多くの人に酒田に来てほしい」と呼び掛ける。
数カ所で撮影が行われた鶴岡市内では、1941年創業の昔ながらの銭湯「鶴乃(の)湯」が人気を集める。番台に座る三谷享子さん(67)は「お客さんは増えたし、電話で場所を尋ねられることも多い」と話す。
1日は定休日で、外観を撮影に車で訪れる観光客が目立った。県外ナンバーも多く、家族5人で訪れたさいたま市の女性(62)は「映画を昨日見たばかりで、その場面の中に来られるなんて。広末涼子ちゃんがこの扉に手を触れたのかな」と感激した様子だった。
遊佐町では28日、町商工会などが主催し、中心部のホールで上映会が開かれた。3回の上映は立ち見も出るほどで、ほぼ満員の計約1500人を動員した。
受賞前の1月中旬ごろに開催は決まっていたが、町担当者は「アカデミー賞効果はすごい」と脱帽。鳥海山をバックにした月光川の河川敷では名シーンの数々が撮られており、「こんないい映画が地元で撮られたことを、庄内の人にまず知ってほしい」(町担当者)と願っていた。