ヘチマの良さ再発見
酷暑の毎日、あまりの高温と湿度のために肌の上に膜が張っているようだ。その膜を洗い流さなくては、皮膚呼吸もできないような気分になる。そこで、お風呂。お風呂の快楽こそ最上である。
欠かせないお風呂グッズは何か。私は懐かしいものと再会した。
今夏、10年以上ぶりで海外に行った。場所は上海。が、目的は万博にあらず。上海美術館で行われた「千姿美人」展という日本の化粧史の展示の解説を書いたので、それを見に行ったのだ。
宿泊したホテルのお風呂グッズに懐かしいものがあった。それはヘチマ。ある程度の年齢の方は、ヘチマで身体を洗ったことを覚えていらっしゃるのではなかろうか。
ホテルに備え付けられていたヘチマは、四角く切り取られて裏側に手を入れられるようにゴムが付いていたため、ぱっと見たときにはヘチマとは気付かなかった。「何だろう?」と袋から取り出して触れてはじめてヘチマであることを思い出したのだ。
早速お湯でぬらして石鹸(せっ・けん)を付け、腕を洗い始めると、少しごわっとした独特の感触に子供の頃がまざまざと蘇(よみがえ)った。乾燥しているとざらざらとしているのに、お湯に浸(つ)けるとだんだん柔らかくなる。
昔、祖母の家の庭でヘチマを育てていた。よく実った実を水につけて繊維だけにしたものの中から特に小さくて柔らかいものを「智子ちゃんの」と祖母が選んでくれた。大きく実った繊維のごわごわしたものは大人用だった。ホテルのお風呂で、祖母のことを思い出していた。
以前、「富山市役所の窓にグリーンカーテン」というニュースを見たが、何を植えたのだろう。朝顔、ゴーヤ、瓢箪(ひょう・たん)、色々考えられるがよもやヘチマはないだろう。来年はヘチマもぜひ植えて欲しい。
「東京の銭湯のペンキ画に立山連峰」という話題も比較的最近のことだ。富山市役所で作ったヘチマを東京の銭湯の常連さんに差し上げたら……。私のように懐かしく思う人も、初めての使い心地の良さに驚かれる人も、想像は勝手にふくらんでいく。
ヘチマで身体を洗うとすべすべしてとても気持ちが良い。スポンジや手拭(ぬぐ)いで洗うのと、どうしてこんなに違うのだろう。これほど心地良いものを、いつから使わなくなってしまったのか。
今年はもう間に合わないけれど、来年はヘチマを植えよう。昔、祖母がそうしてくれたように、ひとつひとつ使う人の顔を思い浮かべてヘチマの実を分けるのだ。
お風呂の快楽への道は結構手間が掛かるのである。