しつけ口実 発覚遅れ 「周囲は積極関与を」
県内の児童相談所が児童虐待について相談を受けた件数が、今年4~9月で581件に上り、過去最悪のペースで増えていることが、県こども家庭室のまとめでわかった。過去最多だった昨年度は年間872件で、今年度は初めて1000件を超す勢い。実態はもっと多いとみられ、同室は「子供の変化に気づいたらすぐに関係機関に伝えてほしい」と呼びかけている。(星聡)
■「身体」最多218件
同室のまとめによると、581件のうち、暴力など身体的虐待が218件(37・5%)、厳しい言葉で責め立てるなどの心理的虐待が143件(24・6%)、食事を与えなかったり無視したりするなどのネグレクト(育児放棄)が186件(32・0%)、性的虐待も34件(5・8%)あった。
虐待を行った者は、実母が352人(60・5%)。実父が135人(23・2%)、実父以外の父が45人(7・7%)だった。
県警少年課によると、児童虐待関連で今年摘発されたのは9人。うち傷害が5人で、性的暴行も1人だった。虐待は「家庭内のしつけ」などの口実で表面化しないケースが多く、表面化した時にはすでに深刻化して子供の生命にかかわる危険な場合も少なくない。捜査当局が刑事事件として立件し、強制的に調べて初めて虐待の実態や虐待が始まった経緯などが明らかになることもあり、問題への対処の難しさを示している。
■最悪の結末
今年7月、静岡市駿河区の民家で長女花恋ちゃん(当時2歳)に暴行を加えたとして、傷害容疑で逮捕、起訴された増田安祐美被告(22)の場合、同居していた水元隆博被告(32)(傷害、重過失致死罪で起訴)と共謀するなどして花恋ちゃんの腹を殴ったり突き飛ばしたりしていたとされる。
静岡地裁での公判で検察側が明らかにした供述調書などによると、増田被告は仕事があり、花恋ちゃんの面倒は主に増田被告の両親や妹がみていた。退職して7月から水元被告と同居を始めたのをきっかけに花恋ちゃんを引き取り、2人で育て始めたが、「なつかず、言うことをきかない」と悩み、さらに水元被告と口論が続いて、花恋ちゃんに暴力を振るうようになった。
その後水元被告も暴行に加わり、7月23日深夜、水元被告が風呂場に5分間花恋ちゃんを放置。花恋ちゃんは浴槽で水死した。7月に入り、増田被告の家族が何度か接触を試みたがほとんど会えず、家族が児童相談所に相談して様子を見ていた直後の事件だった。
関西学院大の才村純教授(児童福祉論)は、「虐待が増えているのは、核家族や母子家庭の増加で親が孤立しているのが大きな要因。虐待に走る前に、周囲がおせっかいと思われるくらい積極的にかかわることが必要で、親も受け入れる努力が必要だ」と話している。
(2009年10月21日 読売新聞)