絶壁にあって駿河湾を一望できる西伊豆町の名物温泉「沢田公園露天風呂」が、10月に台風18号の被害にあって以来、営業再開できない状態が続いている。一帯は国から「名勝伊豆西南海岸」に指定され、壊れた脱衣所などの修理には国の許可が必要。ところが、21年前に無許可で露天風呂をつくってしまった経緯から、国から「改修が必要になったら撤去すること」とクギを刺されているからだ。名所復活の願いと、国との約束の板挟みとなったまま、「絶景風呂」復活のメドは立っていない。(中沢滋人)
◆西伊豆町名物、台風被害 修理不可?
露天風呂は西伊豆町仁科の絶壁の上にある。脱衣所はこぢんまりとした小屋。男女別に仕切られた浴槽は数人程度しか入れないが、駿河湾を一望し、沖の三四郎島がよく見える。08年度には約1万5千人が利用した。
ところが、現在、仕切りは倒れ、浴槽は空っぽ。駐車場からの階段の手すりも所々崩れている。旅行中に立ち寄った横浜市の会社員男性(32)は「一度入ったが、目の前に海が広がり、開放感がすばらしかった」と残念がる。堂ケ島民宿組合長の佐藤晴也さん(73)も「あの風呂に入りに来るという人も多く、みんながっかりしている」と、一日も早い再開を求める。
◆「知らなかった」
町観光協会が露天風呂をつくったのは88年7月。全国的な露天風呂ブームに乗って、町有地の沢田公園に設置した。一帯は文化財保護法に基づく保存管理計画で厳しい保護対策がとられる特別地区・第一種地区のため、原状変更する際には国の許可を受けないといけないが、「当時は知らなかった」という。
文化庁からの指摘を受け、観光協会は始末書と申請書類を提出。89年1月、地元観光振興という事情をくんでもらって特別に許可をもらったが、文化庁長官名で「改修等が必要となる時点で、撤去し原状に復すること」という書類も受けた。
◆「老朽化ではない」
このため、台風被害から1カ月以上が過ぎたが、修理は手つかずのまま。200万円以上かかるとみられる修理費を工面するあてもたっていない。これとは別に、町は管理する階段部分の修繕費150万円を補正予算で計上したが、執行停止したままだ。
観光協会は町とともに、文化庁の窓口を務める県教委文化課と協議中。観光協会の加藤賢二会長は「最初の手順を間違ったことは申し訳ないが、我が町の観光業には必要な施設。自然を守りながら景観を継承していくので、ぜひ一日も早く復旧させていただきたい」と話す。
一方、県教委文化課は「『改修』はできないので、撤去せざるを得ない面もある。だが、老朽化ではないので、別のあり方もあるかとも思える」として、「現在は何とも言えない」。来週にも文化庁との協議を始めるというが、いつ解決できるかはわからないという。