【特報 追う】三セク鉄道最新事情(下)通勤通学…通院を第3の柱に

11月29日8時7分配信 産経新聞

 ■高齢者介添えも IGR 

 平成14年、東北新幹線の八戸延伸を受けて、並行する岩手県内の東北本線の経営をJR東日本から引き継いだ「IGRいわて銀河鉄道」(盛岡-目時駅間、82キロ)。今月5日から、「地域医療ライン」という高齢者向けのユニークなサービスを始めた。「通院を通勤、通学と並ぶ輸送の柱に」。その背景には、寝台特急の減便など厳しさを増す経営環境の中、サービス強化でマイカーから鉄道に乗客をシフトさせたい-という強い思いがある。(中川真)

 「どちらの病院までいらっしゃいますか」「滑りやすいのでご注意ください」

 早朝のIGRの電車内で高齢者に優しく声をかけているのは、「地域医療ライン」のアテンダント、田中敦子さん(47)。

 田中さんは金田一温泉駅(二戸市)の委託駅員だが、有償ボランティアとして週1、2回、他の2人と交代で乗務する。朝7時43分発の電車で盛岡まで行き、通院客が帰宅する午後の電車(盛岡駅2時10分発)で戻ってくる。

 地域医療ラインは、盛岡の総合病院や眼科へ通院するために、金田一温泉-奥中山高原駅(一戸町)間から乗車する県北の高齢者と付き添いの家族をサポートする“総合輸送サービス”だ。

 2両編成の電車の後部1両はすべて優先席。アテンダントが案内のほか、毛布を貸したり薬を飲むときの水を提供するなどこまめに世話をする。「高齢者はちょっとした転倒で骨折することも多いので、必ず着席してもらうようにお願いしています」(田中さん)。

 「あんしん通院きっぷ」という往復割引乗車券も売り出した。割引率は最大15%。付き添いも含む2人用なら同36%と格安だ。来月5日までは、盛岡駅から岩手医大病院や県立中央病院などまで、無料でタクシー(相乗り)で送るサービスもつけた。その後も低額負担で乗れるよう、IGRはタクシー会社と詰めているという。あんしん通院きっぷは1日平均11人が利用。「電車賃が安くなって助かっている」(二戸市の70代の女性)とおおむね好評だ。

 地域医療ラインは、本社の若手社員たちのアイデアで実現した。

 「適当な病院がなく、沿岸北部の洋野町あたりから盛岡に通っている高齢者が多く、家族も困っている」「朝の盛岡行きでは通院の高齢者を必ず見かける」-。

 利用実態を調査すると、盛岡の総合病院に入院し、退院後の通院をしている人が多いことがわかった。

 こうした調査で意見や要望を集めながら、高齢者が電車に乗りやすいように練り上げた。例えば、駅から離れた近隣自治体からも乗ってもらえるように、各駅に専用の無料駐車場を設置したという。

 IGRはこれまでも、定期券利用者を増やそうと、住宅や団地が多い盛岡近郊の青山、巣子に新駅を設置したり、各駅に駐車場を用意して「パーク&ライド」の環境を整えたほか、定期券に買い物、食事、映画、温泉入浴などの割引サービスを付けるなどの取り組みをしてきた。

 こうした努力の結果、昨年度の通勤定期の輸送人員は、3年前より約17%増の 107万人となった。一方、通学定期は少子化の影響で同8%減の 217万人と低迷しており、この流れは今後も止まりそうにない。通院輸送を「第3の柱」として拡大することは、将来的にもIGRの大きな課題といえる。

 IGRによるサービス強化の背景にある寝台列車減便は、一体どんな問題なのか。

 もともと東北本線の一部だったIGRは、自前の運賃収入に加えて、寝台特急の運賃と特急料金、貨物列車の線路使用料などで成り立っている。このため、JR各社が方針を転換すると、その影響をもろに受けてしまうのだ。

 「『よし、これからがんばろう』と思った矢先にドカンと来た」

 伊藤光雄総務課長が振り返るように、IGRは昨年度、3000万円の黒字を確保し、3年連続で単年度黒字で安定飛行に移ったかにみえた。

 ところが、東京-札幌間を走るJRの寝台特急(3往復)のうち、「北斗星」1往復が今年3月のダイヤ改正でなくなり、収支ベースで最大約1億円の影響が出ると見込んでいる。この結果、IGRが28日公表した今年度の決算見込みは、2800万円の赤字転落となっている。

 さらに、2年後の新幹線の新青森延伸に向けて、IGRも青森県の「青い森鉄道」とともに新しい運行システムを導入しなければならず、コスト増は必至だ。IGRは「1年定期券は 365人の団体と同じ価値がある」をキーワードに、安定収入となる自前の利用者確保に頭をひねり続ける。

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