12月15日10時51分配信 産経新聞
阪神大震災当時、本堂が避難所となった兵庫県芦屋市茶屋之町の西法(さいほう)寺副住職、上原照子さん(57)が今年6月に急死した夫の遺志を継ぎ、発生から14年となる来年1月17日、例年通り「犠牲者追悼会」を行い、ドラム缶製の鐘をつく。上原さんは「夫はいつも命の尊さを説いていた。被災経験を次の世代に伝えていくのは私たちの使命」と話し、夫への思いも込めて鎮魂の鐘を打ち鳴らす。
同寺の住職だった夫の泰行さん=当時(59)=は今年6月3日、自宅近くの空き地で、トレーニング中に事故死した。現在の住職は娘婿の大信さん(30)が継いでいる。
震度7の激震に襲われた同寺は発生から半年間、近くの住民の避難所となり、多いときには70人が寝泊まりした。泰行さんはこのとき、僧侶仲間を通じて集めたドラム缶で湯を沸かして仮設の風呂を作り、毎日350人が利用したという。
その後、平成15年に震災でひびか入った本堂を再建。建物は災害に強いコンクリート造りとなったが、当時のことを忘れてはならないと、ドラム缶で作った「追悼の鐘」を設置。この年から毎年、大みそかと1月17日午前5時46分に鐘をつき、犠牲者の冥福(めいふく)を祈ってきた。通常の釣り鐘とは違い、「ガラン、ゴロン」と鳴る音は決して響きが良いとは言えないが、地域の人には特別な思いを持って受け止められている。
また、泰行さんは「どんな状況下でも力強く生き抜いてほしい」という願いを込め、夏休み中の子供たちを毎年、キャンプに連れて行く活動もしていた。
照子さんはそんな泰行さんや地域の思いを大切に引き継いでいくことを決意。「14年という月日は震災を語る人が少なくなってくるころ。私たちは故人を偲(しの)ぶとともに、命があることに感謝する気持ちを次の世代に伝えていきたい」と話している。