入浴事故にご注意を 激しい温度差…血圧も急変動

2月4日8時5分配信 産経新聞

 ■脱衣所や浴室を暖めると効果的

 寒さがまだまだ厳しい季節。家に帰ったら、まず熱い風呂に入りたいという人は多いだろう。しかし、温度差が激しいこの季節は一歩間違えれば、血圧が急変動して体に負担をかける危険性が高い。安全に入浴を楽しむためには、どんな点に気をつければいいのか、専門家に聞いた。(森本昌彦)

 ◆帰宅後すぐは「×」

 平成19年の人口動態統計年報によると、家庭内での不慮の事故で亡くなった1万2415人のうち、水死は3割近い3566人。このうちのほとんどは浴槽内での事故だ。

 特に冬場の入浴は注意が必要だ。入浴中の急死者数(東京23区)と気温の関係について、東京ガス都市生活研究所がまとめたところ、死亡者数が100人以上となるのは12~3月。4月以降は2けたに減り、8月には12月の10分の1以下にまで減少する。

 寒い時期に入浴中の死亡事故が増えるのは、急激な温度変化と水圧変化により、血圧が急変動するためだ。日本赤十字社医療センターのリウマチセンター長で、有限責任中間法人「日本温泉気候物理医学会」の猪熊茂子理事長はこう説明する。

 「脱衣所が寒いと、服を脱いだときに血管が締まり、血圧が上がる。それが、風呂に入って温かくなると、逆に血管が広がる。その後、風呂からあがると水圧もなくなるため、血圧が下がる。つまり、血圧の振幅が激しくなって体への負担が増すわけです」

 急に血圧が上がれば脳出血で死亡する恐れもあるし、逆に急激な血圧低下が起こると、脳貧血を起こし浴室で滑っておぼれたり、けがをしたりする危険性もある。猪熊理事長は「寒い外から帰ってきて、いきなり熱い風呂に入るのは危険だ」と訴える。

 ◆室温差をなくす

 同学会は入浴の際に心がけておきたいポイントを7カ条としてまとめている。このうち、寒い時期に最も気をつけたいのは、脱衣所、浴室などを暖め、居間との室温差をなくすという点。

 対策として、ガス会社やガス器具メーカーが推奨しているのが、浴室暖房乾燥機の設置だ。脱衣所や洗い場を暖かくすることで、入浴時との温度差を減らし、体への負担を和らげることができる。東京ガス都市生活研究所の主幹研究員、興梠(こおろき)真紀さん(39)は「水を使うところなので、安全のため専用の機械を薦めます」と話す。

 ただ、この不況で購入をためらう人もいるだろう。浴室暖房乾燥機を導入する以外に方法はないのか。ノーリツの広報・IR室、松田みすずさん(33)は「入浴前にシャワーを出しておいて、浴室内を暖めておく方法があります」。東京ガスの興梠さんも、給湯時に途中からシャワーを使って湯をためる方法を紹介し、「シャワーを止めると浴室の温度が下がってくるので、ためた後はすぐに浴室に入ってください」と助言する。

 ◆死因解明の動きも

 事故を防ぐため、入浴時に死亡した人の死因を解明しようとする動きもある。

 日本温泉気候物理医学会と日本法医学会は20年12月、死因解明のための解剖、画像診断などがほとんど行われていないとして、積極的に解剖などを進めるよう求める声明を発表、厚生労働省などに提出した。

 日本温泉気候物理医学会の猪熊理事長は「例えば転倒をきっかけとした事故が一番多いと分かれば、浴室を滑らないようにする。脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞が多ければ、特段の注意を呼びかけるなど対策を立てることができる。安全な入浴のため、死因解明を積極的に進めるべきだ」と話している。

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