2月13日17時1分配信 毎日新聞
◇伝統を新しい資源に、「自然体が一番いい」
天川村は吉野地域でも観光資源に恵まれた村だ。温泉と名水、川、鍾乳洞、古い寺社…。修験道の根本道場・山上ケ岳(1719メートル)から信仰の山・弥山(1895メートル)、近畿の最高峰・八剣山(八経ケ岳・1915メートル)へと続く「近畿の屋根」を大峯奥駈道が通る。
伝統を新しい資源として見直す動きもある。同村洞川地区は山上ケ岳の登山口になっている。大峯山洞川温泉観光協会長の紀埜弘道さん(59)によると、行者の数は20年前、旅館を継いだ時の3分の1になっているという。80年に温泉源を掘り、今は一般客の方が多くなった。温泉がないと、観光客も集まらない。
洞川地区の目指す方向を、紀埜さんは「バブル経済がはじけてから客が堅実、健康指向になった。ここには美しい自然、歴史、神秘がある。水は良い。来た人は癒やされたと言ってくれる。洞川ではイベントなどはせず自然体が一番いい」と言う。厳しい修行の地として、歴史がつくった財産だ。
洞川地区の増谷(ましたに)公男さん(54)は10年ほど前、親が高齢になったため、旅館を廃業した。増谷さん自身は教師から転身、地元の職人の手作り品を売る店「ましこ」を始めた。地元の材料を使って自分で作ったジャムは昨年、第2回天川村おみやげ大賞のグランプリに輝いた。
母親が客に出していた山菜のつくだ煮、地元の知人が捕ったイノシシとシカの肉、地元産のハチミツ、吉野本葛なども店に置いている。洞川地区の情報発信のため、他の店のパンフレットも備えている。増谷さんは「宿泊と朝食だけの宿に泊まり、星空と蛍を楽しむような観光地になれないか。行者は究極の自然派。若い人の感覚を生かせば、まだ資源はある」と話している。【栗栖健】