一時金:高齢者向けマンション賃貸業者、完成見込みなく2億4000万円 /神奈川

3月4日12時1分配信 毎日新聞

 介護付き終身居住をうたう高齢者向けマンション「サン・オリーブ」(平塚市土屋)の賃貸業者が、完成の見通しがないのに入居者を募集し、一時金として数百万円を支払わせていたことが分かった。県への相談だけで契約件数は少なくとも37件、支払額は2億4000万円を超す。解約者にも一時金はほとんど返金されていない。刑事告訴も出ており、県警は詐欺の疑いもあるとみて調べている。【五味香織、池田知広】
 ◇県が37件把握、契約者が告訴
 勧誘パンフレットや不動産鑑定士の評価書などによると、マンションは鉄骨造り3階建てで1~2LDKが8部屋ある造り。業者は秦野市に拠点を置き、04年ごろから「新築」「完成」などと戸別配布のチラシで宣伝、入居勧誘していた。だが資金難から工事が滞り、07年6月には横浜地裁小田原支部が強制競売開始を決定。建物は今も完成していない。
 だが業者は競売開始後も「入居一時金550万~750万円」などと勧誘を継続。入居者を介護したり、入退院時に付き添ったりするとも宣伝した。
 県によると、契約者は県央部が中心で、最高齢は90歳。契約額は最高で約1200万円に上る。自宅を引き払って入居準備を進めていた人もいたという。
 県は月内にも県消費生活条例に基づき是正勧告する方針。しかし勧誘をやめさせる強制力はなく、県は「行政としてこれ以上の対応はできない」と話している。
 業者は毎日新聞の取材に対し「(返金が滞ったのは)力不足で申し訳ない。オープンの見通しが立ったので分割で返していきたい」と話している。
 ◇「大損した」自責の高齢者
 安心して住めるはずの「終(つい)のすみか」は、幻となった。支払った入居一時金750万円のうち50万円しか返金されていない平塚市の独り暮らしの女性(89)は「大損をしてしまい、バカみたい」と自分を責めている。
 昨年2月中旬、ポストのチラシを見て、この賃貸業者に入居を問い合わせた。男性社長は車で迎えに来て現地に案内し「4月末には入居できる」などと言って勧誘、女性は定期預金5件を解約して入居一時金を支払った。
 その後も社長は「身長に合った手すりを取り付ける」などと言っては、女性をマンションに連れて行き、風呂場やトイレなどで寸法を測った。女性がバラを育てていることを知ると「敷地の庭に植えたらいい」と勧めたりもしたという。
 一方で「電気や水道はまだ通っていない」「ほかの部屋は入居しているので見せられない」とも。不信感を抱いた女性は同3月下旬に解約を申し出た。社長は「入居解約同意書」で同5月末までに一時金を全額返すと約束したが、返金額は約50万円にとどまる。電話しても社長らは「もうすぐ返金する」と繰り返すばかりだった。
 女性は約30年前に夫と死別し、子どもはいない。「病気になったら病院への送迎もあると言っていた。私の一生を守るという話だったので、親類にも迷惑をかけなくて済むと思った」と悔やむ。業者からは今年2月末「4月以降に返金する」という文書が届いたが、応じていない。【五味香織】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA