見たくないもの 京都市西京区・中村暁子(主婦・59歳)

近ごろ、毎朝楽しみにしている新聞の活字が読みにくい。友人に話すと、「それは老眼が進んだんとちがう? 眼鏡を替えてみたら」と言う。

 考えてみたら、この眼鏡はもう10年近く使っている。そうかもしれないと眼鏡店に行くと、やっぱり度が合ってないとのこと。2代目の老眼鏡となった。

 家へ帰って、ゆっくり新聞を広げ目を通す。まあ、よく見えること。今まで眼鏡をかけても読めずに虫眼鏡まで使って見ていた天気予報欄まで、はっきり見えるのもうれしい。

 その時、新聞を持つ自分の手にも目がいった。思わず新聞を横に置き、両手をそろえてじっと見入った。

 今まで気づかなかった、いや見えなかったたくさんのしわや、ポツポツとした小さなしみまでしっかり見える。動揺する心を抑え、ハンドクリームを塗らなきゃ、と洗面台へ急いだ。

 クリームをこれでもかと塗り込んだ後、「もしかして」と、眼鏡をかけたまま鏡の中の自分の顔をのぞき込む。まあ、これが私? 目の下には小さなしわがいっぱい刻まれている。こんなにしわがあるなんて……。字が読みにくかったのは解決したけれど、見たくないものまで見えてしまった。

 夜、風呂上がりに化粧水を念入りに塗り、パックをしていると、夫が私の顔を見て笑う。「無駄な抵抗」と。

 人に何と言われようと、せめて現状を維持したい。日々努力あるのみ。気づくのが少し遅すぎたけれど。

毎日新聞 2009年12月7日 大阪朝刊

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA