【特報 追う】観光シーズン「地震」直撃 秋田でも風評被害「今季は絶望的」

10月21日8時1分配信 産経新聞

 岩手・宮城内陸地震で両県と県境を接しながら実質的被害が少なかった秋田県。今月、震源地だった栗駒山周辺も紅く染まり始め、年間で最大の観光シーズンに突入した。ところが、書き入れ時の秋となるはずが今年は「非常事態」に陥っている。地震による観光業への風評被害に対し、県は今月下旬から、観光PRの緊急対策事業を実施することに。県観光課は「規模、中身とも近年記憶にない」とする一方、一部の観光業者からは早くも「今シーズンは絶望的。(同事業が)起爆剤となってほしいが難しいだろう…」とあきらめの声も上がっている。(宮原啓彰)

 秋田県の実施する「『秋田の元気』発信緊急対策事業」の目玉は、約1030万円を投じ、宿泊者らにガソリン券や県産品をプレゼントするという“実弾作戦”だ。さらに26日、約250万円をかけJR上野駅(東京都)で観光イベントを実施。このほか、客足が遠のく冬に向けては「冬季誘客対策強化事業」として、230万円を計上、首都圏の鉄道に広告を掲出する方針だ。

 今年度の当初予算(「秋田ツーリズム」PR事業費、約3100万円)の約半分、計1500万円を超える予算は「緊縮財政の折、かなり大規模」なもので「県予算によるガソリン券などの配布も記憶にない」(県観光課)という。

 背景には、今年度の「予想を超える観光客の落ち込み」(同前)がある。今年8月1~24日の県内の宿泊者数は15万7990人。前年同期比で86.6%と2万4549人減った。同期間中の宿泊キャンセル数は全県で2万1749人に及ぶ。

 とりわけ湯沢市や東成瀬村など震源地に近い県雄勝地域振興局エリアの宿泊者数は前年同期比64.0%と危機的状況。同振興局は「9月以降も好転の兆しが見えないまま。2度の大地震の風評被害が続いている」と話す。また、湯沢市商工観光課は「例年ならば10~11月の2カ月間で年間観光客数の3分の1以上が訪れるのだが…」と肩を落とした。

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 地震で落ち込んだ観光事業のてこ入れを目的とする同事業だが、被害が最も深刻な同地域の観光関係者には「県による支援はありがたいが、効果はほとんどないだろう」との声が多い。

 なぜなら同地域の観光客のうち7割程度が、岩手・宮城内陸地震でいまだ一部通行止めとなっている国道398、397、342号を通って訪れていたからだ。

 岩手県境から秋田県側に数百メートルの国道342号沿いにあり、標高約1100メートルからの眺望が楽しめる露天風呂で有名な「栗駒山荘」(東成瀬村、秋田栗駒リゾート)。同社の高橋博喜さんは「日帰り客は例年の3割まで減った。岩手と宮城の道路が繋がらないと打つ手がない」とため息。また、同振興局は「首都圏に観光PRに行っても『地震の影響で東北は厳しい』といわれる始末。観光PRなどの事業を地道にやっていく以外ないが、道路状況に加え、風評被害も根強くなかなかうまくいかない」と話した。

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 比較的被害の少なかった秋田側の各国道は既に開通し、県が新たに建設を進めていた国道398号「大湯道路」(全長約6キロ)も今月10日に開通した。

 しかし、宮城、岩手両県によると、国道 397号の開通予定は来春。国道398号は来秋、342号に至っては平成22年中の復旧を予定している。

 湯沢市の主要温泉地「小安峡温泉」は昨年16万5000人の観光客が訪れた。地震で温泉の源泉が一時枯れるなどの被害を受けた温泉旅館「よし川」の阿部繁雄さん(65)は「半月ほどで源泉は復活したが、客足は例年の半分くらい。周辺の旅館経営者には『(道路が開通せず)2年、3年と影響が続くなら廃業に追い込まれる』という不安の声も少なくない。状況は厳しいが自分ができることを頑張っていく以外にない」と話した。

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 ■岩手・宮城内陸地震での秋田県の被害

 秋田県のまとめ(7月18日現在)では、岩手・宮城両県と比べ軽微だったものの、震度5強だった湯沢市と東成瀬村など県南東部を中心に被害が出た。県内に死亡者はなかったが重軽傷者21人を出した。住宅被害は半壊1棟など12棟、公共施設も学校など69施設で被害が発生。被害額は公共土木施設被害が25億1000万円、農林被害が約1億4120万円。観光被害は7月2日現在、延べ8699人の宿泊キャンセルが発生した。

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