昨年5月に引退した静岡市出身の元前頭潮丸(31=現東関親方)の引退大相撲が1月31日、東京・両国国技館で行われた。断髪式で15年間結い続けたまげを落とし、涙を流した東関親方は新弟子の獲得を本格的に開始することを明言。かつて同じ高砂一門の先輩としてけいこをつけ、横綱にまで上り詰めた朝青龍(29)との思い出を振り返り、当時の横綱のようなハングリー精神が旺盛な関取を育てたいと語った。
こらえていた涙はもう、抑えきれなかった。260人がはさみを入れた断髪式の終盤。東関親方は何度もハンカチで目をぬぐった。最後に師匠で先代東関親方(元関脇高見山)の渡辺氏がまげを切り落とすと、体も震えた。「15年間この土俵の上に立ち、勝ち負けやケガもあり、心が折れることもありましたが…」。涙で言葉が続かず、何とか「先代親方に少しでも近づけるように頑張ってまいります」と言い切ると、国技館は大歓声と拍手に包まれた。
断髪式後は「ちょっと泣きすぎたなぁ。全然しゃべれなかった」と苦笑いで振り返り「これで、新たな気持ちで親方として専念できる」とけじめがついた。これまでは引退相撲の準備で忙しかったが「バンバン動きます。新弟子1号は静岡から入れたい」と宣言。理想の力士像の1人に、まだ若かった朝青龍の姿を思い描いた。
同じ高砂一門。かつては東関親方がけいこ相手を務めたこともあった。「横綱は昔、転がしても立ち上がって、泣いてぶつかってきた。普通の子とはそこから違いました。ハングリー精神がすごく強かった。次第に、けいこをつけられるようになっちゃいました」。
ともに幕下上位の時代、相撲普及のために2人で沖縄に行ったことがあった。直後に朝青龍が関取となり、追うように東関親方も上がった。年齢も近くウマが合い、何度も食事をした。この日、最後の一番を同部屋の高見盛と取り終えると、支度部屋の風呂で一緒になり「まだいけるね。体がしぼんでないですね」と声をかけられた。断髪式では「お疲れさまでした」とねぎらわれた。
今でこそ暴行騒動の渦中にある横綱だ。だが「年下だけど見て学ぶものがあった。あんなハングリー精神を持った子に育てたい。人として、大相撲をやったから大きくなったと言われる力を育てたい」と「強い横綱」になるまでの見習うべき点はしっかり見えている。最も若い部屋持ち親方は、騒動続きの角界でも、認めるべきもの学ぶべきものを確かめながら、第1歩を踏み出した。【今村健人】