家族や仲間との登山やハイキングに気持ちのいい季節。日帰りもいいが、山小屋に宿泊してはどうだろう。高地ならではの静寂と澄んだ空気、星空など非日常のひとときを過ごせるかもしれない。
(服部利崇)
「お疲れさまでした」
約二時間の登山で汗だくの記者を、笑顔で迎えてくれたのは雨宮克美さん(45)。山梨県甲州市の大菩薩嶺(二、〇五六メートル)の山腹にある山小屋「福ちゃん荘」(一、七二〇メートル)のおかみさんだ。
山小屋を利用するときの注意点を聞いてみた。
「突然来られると、相部屋になったり、食事の準備ができなかったりする場合もあります。予約をしてもらえると助かります」と克美さんは話す。到着は明るいうちに。暗い山道は何が起きるか分からない。
山小屋も個室化が進む。福ちゃん荘も通常は六畳ほどの個室。テレビはない。ごみ箱もないのは、持ち帰りが原則だから。共同トイレは非水洗。お風呂はあるが、このときは“冬季”で使えなかった。
夕食は午後六時。刺し身コンニャクや大根の漬物などは克美さんの自信の手料理。広い土間の一部が食堂で、机やいすは夫の昇さん(57)の手製だ。山小屋は、人の手が入っているから温かい。
小屋主や他の客との会話も楽しもう。山の情報も交換できる。記者も夕食後、夫妻と薪(まき)燃料のだるまストーブを囲んだ。シカの異常繁殖が話題になった。昇さんは「食べるものがなく、高山植物まで口にする。山は姿を変えつつある」とため息をついた。
山小屋の夜は早い。夜更かしは翌日の登山に影響する。消灯時間は発電機のエンジンを止める午後九時。トイレに行く時は備え付けの懐中電灯が頼り。布団も自分で敷く。記者の携帯電話は通じない。暗くなったら寝るだけだ。
翌朝。シジュウカラやコガラの鳴き声で目が覚めた。寒いが、気分はいい。地図でルートを確認し、午前八時前に出発。尾根を歩き、ふもとまで戻る約四時間のコース。富士山の眺望も楽しめた。
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山小屋は電気、ガス、水道、通信など生活インフラが完ぺきではない。山岳専門誌「岳人」の広川建司編集長は「快適な環境づくりに努力する山小屋は増えているが、いつでも風呂を使え、食事も豪華、とはいかない」と話す。
マナーやルールは守る。水や電気の無駄遣いも控える。「山をきれいに維持しようと、小屋主が知恵や費用を投じているのだから」と広川編集長は指摘する。
暗いうちに出発する時は、物音を立てずに出る。レジ袋はガサゴソと結構な音がする。小屋主が何でも知っているからといって、登山ルートの確認に頼り切ってはだめ。必ず自分で調べて決める。救急対応には限界がある。体調を調え、酒の飲み過ぎや夜更かしは避けよう。
【初心者お薦めの山小屋】
▼萬岳(ばんがく)荘(岐阜・長野県境) 小屋から富士見台高原(1739メートル)までは片道40分。1泊料金(自炊)は大人3000円、子ども2000円。営業は29日から。中央自動車道園原ICから「ヘブンスそのはら」へ。ロープウエーとリフトで移動、その後徒歩60分。ヘブンスそのはら=(電)0265(44)2311。
▼鍋割山荘(神奈川県秦野市など) 丹沢山系、鍋割山(1273メートル)の山頂にある。1泊2食で大人6300円、小学生以下4800円。小田急線渋沢駅からバスで大倉下車。徒歩3時間半。まだ山桜も楽しめる。(電)090(3109)3737。
▼雲取山荘(東京都・埼玉県境) 都最高峰、雲取山(2017メートル)の尾根沿いに立つ。小屋から山頂までは約40分。360度のパノラマが楽しめる。1泊2食で大人7500円、小学生以下7000円。JR奥多摩駅からバスで鴨沢下車。徒歩7時間。(電)0494(23)3338。
▼福ちゃん荘(山梨県甲州市) JR塩山駅からバスで大菩薩峠登山口で下車。徒歩2時間20分。(電)090(3147)9215。