11月21日8時1分配信 産経新聞
平成19年度に全国の小中高校で発生した暴力行為は5万2756件で、前年度より18%増え、過去最高だったことが20日、文部科学省の「児童生徒の問題行動調査」で分かった。小学校で37%増加するなど低年齢化が進み、高校では校内暴力があった学校が初めて半数を超えた。いじめの認知件数は10万1127件で2万件以上減少したが、文科省は「認知できていないだけの可能性もある」と慎重な見方を示している。
暴力行為が増加した理由について、文科省は都道府県教委の分析として、児童生徒が自分の感情をコントロールできない▽規範意識の低下▽コミュニケーション能力の不足-を挙げている。
暴力行為の内訳は、生徒同士が2万8396件で最も多く、器物損壊1万5718件、対教師6959件など。警察の補導など関係機関の措置を受けた小学生は80%増の182人、中学生が8%増の3872人、高校生が14%減の648人だった。
校内暴力が発生した学校は高校で53・6%(前年度比5・6ポイント増)に及び、比較可能な9年度以降の統計で初めて半数を超えた。
いじめでは、認知件数の減少とともに、いじめを「認知した」とする学校数も46・9%(同8・1ポイント減)と半数を割った。しかし、調査で「認知しなかった」とする学校は、認知した学校よりアンケート調査の実施といったいじめの実態把握に消極的とする結果も出ており、文科省は「油断できない状況」として、学校側に一層の対策を求める方針。
携帯電話などネットを利用したいじめは5・8%で、同1・9ポイント増加した。
自殺者は158人。背景に「いじめの問題があった」とされたのは中学生1人、高校生4人の計5人(同6人)だった。
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体当たりをしてくる、黒板消しを投げつける-。文部科学省が20日公表した児童生徒の問題行動調査で、小学生による暴力行為の深刻さが浮かび上がった。歯止めがきかない子。口より先に手が出る子。暴力の矛先は子供同士だけでなく、教師にも向いている。「この20年で子供の質がすっかり変わってしまった」とベテラン教師は嘆く。いったい、教育現場で何が起きているのか。
「うるせえ。くそばばあ」。愛知県内の小学校に勤めるベテラン女性教諭は数年前、小5の男子児童の授業態度を注意した途端、逆に食ってかかられた。「受け入れたくない人はすべて嫌いと思っている。ガードが堅く、心が見えない。10~20年前はこんなことなかったのに」と、ベテラン教諭は頭を抱える。
手加減なく体当たりする子。気にいらないことがあると机を投げる子。いきなり隣席の子をたたくなど授業を妨害するケースも少なくない。目を離すと、すぐにけんかになる。おちおち職員室で休憩も取れない。「言葉よりも先に手や足が出る。自分の考えを伝えることが下手になった」
暴力をふるう小学生は上級生になるほど増える。暴力をふるった児童数計5111人のうち、5、6年の2学年だけで計3290人で全体の6割強を占めた。
こうした状況について、河上亮一日本教育大学院大教授(生徒指導論)は「自由や個人を重んじて子供を一人前扱いする社会的な風潮が強まり、難しいこと、つらいことに挑戦させる機会も減った。教師と対等だとの雰囲気が広まり、指導に我慢できず暴力で反抗してしまう。子供同士でも欲望が抑えられずに、すぐ手を出してしまう」と分析。「自由を大事にするのも結構だが、それだけでは子供の自立は難しい」とクギを刺す。
子供の暴力は歯止めが利かないことが多い。ある50歳代の男性教諭は、はさみを持って、教室で暴れる小3男児を羽交い締めしようとして、振り回されて骨折した。別の女性教諭は、授業中に席を立って騒ぐ子を抑えようとして足をけられたという。
「今の先生は『子供たちが怖い』と不安がっている」と、東京成徳大子ども学部長の深谷昌志教授は指摘する。そのうえで、「普通に育てればいい。一緒にご飯を食べ、一緒に風呂に入り、声をかけてやること。大人が環境を整えれば、子供の心は開かれるはず」と話している。