11月26日8時6分配信 産経新聞
■クーポン券やネット連携…価値ある情報へ多様化
出版不況が厳しさを増している。今年に入り、「論座」(朝日新聞社)や「月刊現代」(講談社)、「読売ウイークリー」(読売新聞社)、「マミイ」(小学館)などの著名誌が相次いで休刊を発表した。出版界をめぐる状況は、地域に密着した情報を発信してきたタウン誌にも当てはまる。厳しい時代を迎え、生き残り策を模索する東北のタウン誌の現状を探った。(小野田雄一)
全国的な知名度を持つ雑誌が相次いで休刊を発表したことについて、東北地方でタウン誌を発行している出版社のある幹部は「出版不況はどこまで行くのか暗い気持ちになる」とため息混じりに話した。
東北は、全国でもタウン誌の発行が盛んな地域だ。6県すべてにタウン誌を発行する出版社があり、福島県内では全国的にも珍しく3誌が発行されている。
“全国誌”とタウン誌の読者層は単純には重ならない。しかし各タウン誌が加盟し、情報の共有を推進している「タウン情報全国ネットワーク」(TJN、東京都)の小池伸昌事務局長は「地域的な差はあるが、出版不況の波は(首都圏だけでなく)地方にも波及してきている」という。実際、TJNの加盟誌は平成11年に過去最大の33誌になったが、休刊などで現在は31誌に減っている。
出版不況の原因は複合的だ。少子化による読者減▽インターネットの普及による情報の多様化・無料化▽紙やインクなど材料費の値上がり▽広告収入の減少-などが指摘されている。
小池事務局長は「雑誌を支える若い女性層が携帯電話にお金を掛けるようになり、雑誌を購入する余裕がなくなっている。また企業広告も、誌面広告より効率が良いネット広告にシフトしてきている」と分析する。
だが、こうした厳しい現状に対し、東北の各出版社はただ手をこまねいているわけではない。
「シティ情報ふくしま」では、今年11月号に同誌としては初めて、販売エリア内17の温泉施設を100円で利用できるクーポン券をつけた。インターネットではまねするのが難しいこうした特典を付加することで、読者を獲得するのが狙いだ。同誌編集部によると「評判は上々」だという。
宮城県で「S-style」などを発行している「プレスアート」(仙台市)では今年10月から、新たに口コミ情報を重視したポータルサイトを立ち上げ、雑誌だけに頼らない経営スタイルを模索している。またラジオ局と連携し、1つの情報を誌上だけでなく電波でも発信することで、相乗効果を狙っている。
さらに同社は近年、本業の雑誌部門でも、従来の若者向け雑誌だけではなく生活に余裕のある大人や、子育て中の親をターゲットにした雑誌を創刊するなど「攻め」の姿勢を打ち出している。川元茂取締役は「メディアの多様化が進む中、これまでと同じターゲットを狙っていただけでは先細りになる。ターゲットの明確化が必要だ。さらにインターネットなどの他メディアを活用することで、情報伝達を活性化することができれば」と話す。
川元取締役は、今後のタウン誌のあり方について「地域情報の提供は、必ず必要とされているビジネスコンテンツ。情報を素早く、かつ無料で得られるインターネットは確かに脅威だが、うまく連携すれば共存はできるはず」と期待を込める。
TJNの小池事務局長も「タウン誌の最大の強みは『地元での信用』と『取材力』。今後、誌面に加え、パソコンや携帯など情報配信の方法は多様化するだろうが、お金を払ってでも読者が必要だと思うような本物の情報を取り扱うことで、ほかのメディアとは異なる付加価値を作り出せる」と話す。
出版不況をめぐるタウン誌の奮闘ぶりを取材し、改めて「読者にとって価値のある、本物の情報」の重みを実感した。
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【用語解説】タウン誌
全国的に販売されている雑誌とは異なり、1都市あるいは1地域に密着した情報を提供する雑誌。基本的に有料で、価格は200~300円代。20代~30代の若者を主な読者層としており、飲食店やデートスポット、イベント情報などを中心に掲載している。
東北は発行が盛んな地域で、タウン情報全国ネットワークによると、「ふぃ~らあ」(青森・3万5000部)▽「アキュート」(岩手・3万部)▽「S-style」(宮城・8万部)▽「あきたタウン情報」(秋田・2万5000部)▽「Zero23」(山形・1万4000部)▽「シティ情報ふくしま」(福島・3万5000部)などがある。