12月4日13時2分配信 毎日新聞
◇きめ細かいサービスで対抗、集客を模索
足利市の中心市街地に来春、大手のビジネスホテルが開業する。また近くのJR足利駅前でも、別の大手ホテルが進出の動きを見せている。付近には既存の老舗ホテルや旅館が多くあり、経営者らは「ビジネス客が減少する中、さらに影響が出そうだ」と先行きを懸念している。ただ、迎え撃つ側も手をこまねいているだけではなく、宿泊料金を下げたり、地元のイベントや商業・観光施設と連携するなど、大手にはできないきめ細かな方策で集客を模索している。地元ホテルの奮闘ぶりを探った。【古賀三男】
市内中心部に進出してくるのは、「ホテルルートイン足利駅前」(仮称)。場所はJR足利駅と同じ中央通り沿いの西側で、足利学校にも近く、国道293号と交わる通1丁目交差点横。来年4月にオープンを予定しており、建設作業が進んでいる。
このホテルを運営するルートインジャパン(本社・東京都品川区)の広報室によると、約1800平方メートルの敷地に延べ床面積約3200平方メートル、9階建ての建物が建ち、計135室の規模。駐車場は99台収容可能という。同社は進出理由について、「全国展開の一環で客のニーズを受けたもの」と説明する。
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足利市商業観光課の統計によると、近年、市内の宿泊客数は年間約10万人で大きな変動はない。今後を考えても、国指定の史跡・足利学校の世界遺産暫定リスト入りは「落選」し、観光客の増加を見込める材料は乏しい。大規模工場の進出によるビジネス客の増加も期待できる状況にはない。また大規模工事なども、企業が関係者用のワンルームアパートを用意する傾向にあるという。
足利ホテル旅館開発協同組合(10社加盟)の理事長を務める旅館「蓮岱館(れんたいかん)」の深澤幸弘社長は「大手の進出は、既存の宿泊客獲得が狙い」と指摘する。大手ビジネスホテルの場合、低料金とスケールメリットを生かし、全国で獲得、利用できるポイントサービスを導入するなど地場の小規模ホテルにとっては脅威で、「資本力でかなうわけがない」と嘆く。
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ルートインは今回の進出に先立ち昨年8月、同市南部の国道50号沿いの堀込町に同市進出1軒目の「ルートイン足利」をオープンした。中心街のビジネスホテル経営者は、この影響を受け「市内の宿泊料金は下がった」という。
今年5月、東武伊勢崎線・足利市駅近くのニューミヤコホテル別館は3980円の部屋を3室用意、シングルの6615円を4680円に値下げした。また足利学校に隣接する鑁阿寺(ばんなじ)前の「ビジネスホテルわかさ」の神崎俊輔社長は、「ルートインの料金が同程度なら下げる可能性もある」としながら、「大手にないアットホームな雰囲気を大切にして、お客さんが何を求めているか探りたい」と話す。
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一方、蓮岱館の深澤社長は対抗策として、イベントとの連携を今年から始めた。11月の足利尊氏公マラソン大会やワイン醸造場「ココ・ファーム・ワイナリー」のホームページに地元ホテルをリンク。ホテルからイベント会場までの送迎を行うなど、小回りの利いたサービスを提供した。「これらのサービスを続けることで、徐々に効果が出ると思う」と期待する。
また今後、宿泊客に居酒屋やスナック、タクシーの割引、銭湯施設の格安利用なども検討している。深澤社長は「反対運動をするつもりはない。戦略を分析しまねしようがない部分で戦っていく」と意欲をみせる。
全国的な大手ビジネスホテル進出が足利市内でも本格的になった。地元ホテル側も静観しているわけではない。さまざまな地元ならではのサービス向上が既存のホテルに期待できる。大手と地元の激しい戦いが、いよいよ足利でも始まった。