春を待つ:岩手・宮城内陸地震、半年/中 「このままでは限界」 /宮城

12月18日13時1分配信 毎日新聞

 ◇生業奪われ、大打撃
 「このままでは限界が近い」「いつまでもボランティアの厚意に頼れない。地域で何かするにも財源は必要」
 今月10日、栗原市役所。大きな被害を受けた花山、栗駒地区の住民がそれぞれ組織した「花山震災復興の会がんばっぺ」「くりこま耕英震災復興の会」の代表が、佐藤勇市長に要望書を提出。長期避難者へのさらなる生活支援などを求めた。耕英復興の会の大場浩徳会長(48)は「生業を奪われた打撃は大きい。いつ戻れるか分からないという不安は深刻」と話した。
 半年がたち、被災者の生活再建が急務となる中、仕事を奪われたという現実が重くのしかかっている。
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 「年も年だし、今更新しい仕事は探せない。待つしかないと覚悟した」。花山・浅布地区で被災した大山幸義さん(56)は、職探しをあきらめた。
 温泉宿泊施設「温湯山荘」の副支配人だった。温湯山荘は地震で休業に追い込まれ、施設を運営する栗原市の第三セクター「ゆめぐり」から解雇の通告を受け、失業保険でしのいでいる。再開後の再雇用を信じて「今できることを」と、がんばっぺのまとめ役を引き受けた。
 温湯山荘の派遣社員だった長男(24)、国立花山青少年自然の家の調理師だった次男(20)も同時に失業。再就職は難航した。地元に思うような職はなく、次男は単身、仙台へ。長男は家族を案じて花山に残り、単発のアルバイトでわずかな収入を得ている。
 妻かずみさん(56)は「(山荘再開まで)どれだけ待てばいいのか分からない状況は精神的につらい。仕事がなければ花山に残りたい人も残れない。元々高齢者ばかりの地域なのに、地震のために、若い人が一層減りそうで不安」と表情を曇らせた。
 大山さんは「もっと厳しいのは、自営業や農業で、失業保険がない人たち。花山では、廃業して外に働きに出ざるを得なくなった人もいる」と指摘する。
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 耕英地区の農業、小野昌男さん(58)は、ふもとの稲屋敷地区のハウス4棟でイチゴの収穫に追われる。夏は耕英で花卉(かき)や高原大根とともにイチゴ種苗を育て、冬は稲屋敷でハウス栽培をして12年。耕英の冷涼な気候で苗が休眠し、冬の収穫が可能になる。被災して耕英での種苗育成ができず、納得いく出来栄えではない。「それでも、今できる仕事があるだけでありがたい」
 耕英地区の41世帯の多くは、イチゴや花、大根、イワナ養殖などの農林水産業で生計を立ててきた。冬の長い耕英で、畑が収穫期を迎える矢先の地震被害だった。夏から秋、週に数回の一時帰宅が許されても、自宅の修理や片づけよりも畑作業を優先して、できる限りの作物を育てた住民は多い。
 住民の中には、いらだちを隠さない人もいる。「崩れたり地盤が緩んだのは途中の道路。高原にある耕英に入れば何ともない。(避難指示・勧告で)滞在まで制限しているのは何の科学的根拠があるのか。今、耕英の生業を奪っているのは地震じゃなく、避難指示や通行規制だ」
 小野さんは「夏の野菜を収穫しながら冬の苗を育て、傍らで来年のための土壌を作り、1年先、2年先を見越して大地と向き合うのが農業。農家が1年仕事できなかったら2年分、3年分のロスが生まれる」と説明。「この焦りは、農家でねえと分からないかもしれない」とつぶやいた。【藤田祐子】
 ◇“見えない失業者”も--55人、今も求職
 岩手・宮城内陸地震の影響で、栗原市花山、栗駒の両地区で失業した人は市の推計で約100人。市内で4カ所の温泉施設を運営する第三セクター「ゆめぐり」の施設のうち「いこいの村栗駒」「ハイルザーム栗駒」「花山温泉温湯(ぬるゆ)山荘」の3カ所が休業に追い込まれ、従業員135人のうち社員、パート計88人が解雇されたことが大きい。
 ゆめぐりは栗原市の合併後、三セク4組織を統合して07年4月発足。市から委託された4施設の運営のほか、バス運行、ごみ収集などが主な業務だった。従業員の解雇について佐藤正則総支配人は「一時解雇の形を取ることで、すぐに雇用保険の給付が受けられ(被災した従業員の)生活も安定する。苦渋の判断だったが、3施設の運営収入は全体の7~8割を占めており、従業員にも非常事態と納得してもらった」と説明。「市の施設再開を信じたい」と語る。
 築館公共職業安定所によると、地震による新規求職者は85人、うち11月末までに就職が決まったのは、パートなどの臨時職を含めて29人。現在も55人が求職中で、うち失業保険を受けているのは48人という。再就職が進まない背景には▽45歳以上の求職者が3分の2以上を占める▽観光業に従事していた人が多く、同じ職種を希望するが求人は少ない▽地元での就職希望が多いが花山、栗駒の求人数は元々少ない――などの事情があるという。
 同安定所の担当者は「自営業者や農家は元々、雇用保険に加入しないため、事業が続けられなくなっても『失業者』とはみなされない。収入が途絶えた人はもっと多いだろう」と語る。
 栗原市の災害義援金配分委員会は10月、職を失った人に見舞金50万円を支給したが、農業従事者は対象にならなかった。栗駒、花山の復興の会は「設備投資などでローンを抱えている農家もいる。失業保険もない。離職者見舞金の対象に農業従事者も加えてほしい」と要望している。

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