12月19日8時1分配信 産経新聞
千里ニュータウンにある府公社の賃貸住宅「佐竹台団地」(吹田市)の建て替え工事が、19日に終わる。2期にわけて実施された工事の完了で、建て替え前からの住民135世帯を含む引っ越しが、年末年始に行われる。周辺には建て替えによる高層化に反対する声もあったが、粘り強い話し合いで解決したモデルケース。子育て世代を呼び込む仕組みも導入し、新年から新たなコミュニティー作りがスタートする。(山澤義徳)
昭和39年に入居が始まった佐竹台団地は、府住宅供給公社が千里地域に初めて建てた賃貸住宅。5階建て25棟790戸で、風呂付き3DKはサラリーマンのあこがれだった。
「ちゃぶ台からテーブルへ。家賃がきつかったけど団地生活は誇らしかった」。造船会社の社員だった安倍欣之助さん(81)は、兵庫県川西市の借家から移ってきた。国鉄(現JR)の初乗りが10円だった時代に、家賃がそれまでの借家の倍、月1万円だったという。
やがて入居者の高齢化が進み、エレベーターがない建物に辛さを訴える声が増える。阪神・淡路大震災を機に耐震化が叫ばれ、平成14年に公社が建て替えを打診する。だが、高層化に対して周辺住民が異を唱えた。
「対立を解くには時間が必要だった」と佐竹台連合自治会長の谷川一二さん(75)。話し合いを中断し、冷却期間をおいた。
1年後、団地内と同じように高齢化していた周辺住民から「歩道がないため道路を歩くのが怖い」という声が聞こえてきた。谷川さんは落としどころを直感。公社と掛け合い、建て替えに際して、団地前の道路350メートルに歩道を付けることで、高層化に合意を得た。
工事が始まった15年以降も、自治会は毎月公社と建設会社を招いて参加自由の会合を開き、苦情や要望に対応した。この「佐竹台方式」は今年2月に全国のニュータウン関係者を招いて千里で開かれた「ニュータウン人縁卓会議」で話題になった。
新しい団地は、5~14階建て10棟560戸で、建て替え前からの世帯はおよそ半数。独居高齢者から子育て世代までに対応可能な49~81平方メートルの7タイプを設け、家賃は月7万円台~11万円台。建て替え前は4万円台前半だったが、広くなり、バリアフリーの最新設備に。以前からの入居者には期間限定で賃料の低減措置もある。
新入居者には、子育て世代に優先枠を設けたことも特徴のひとつ。千里ニュータウンでは、65歳以上の高齢化比率が3割に上るため、若年層を呼び込むのがねらいだ。吹田市は「千里再生のモデルケースになれば」と期待する。
新旧住民が協力した街づくりの取り組みが始まる。谷川さんは「年明けからが正念場です」と気を引き締めている。