12月20日12時1分配信 毎日新聞
◇黄金湯わく自慢の源泉
長野市松代町東条の加賀井温泉・一陽(いちよう)館には「隠し湯」の名がしっくりくる。上信越自動車道の長野インターチェンジを降り、田園地帯をしばらく走ると古めかしい木造建物が見えてくる。この裏手に、赤茶色に濁る黄金湯がわき出る自慢の源泉がある。
初めての客が湯船につかろうとすると、同館社長の春日功さん(73)が泉質から地域の歴史まで丁寧に講釈してくれる。実はこの人、東京海洋大の元教授。退官後に、昭和初期に父が創業した温泉宿を継いだという。
宿泊部門は休業しているが、男女別の湯殿、混浴の野天風呂、それに休憩用の大広間が利用できる。浴場にせっけんやシャンプーなどはなく、まさに湯治場の風情だ。
湯殿は柱なしのつり天井。縦7メートル、横2メートルの浴槽があり、広々としている。毎分200リットルの湯がかけ流し。湯をすくう黄色い「ケロリン」のおけは、見事な茶色に染まっていた。皆、首までどっぷりと湯船につかって、静かに目をつぶっている。これが“流儀”のようだ。
野天にも温泉水が注ぎ込まれている。空気と混ざって真っ茶色になった湯の中で、初老の常連客たちが談笑する姿が印象的だった。
効能は神経痛、糖尿病、皮膚病、肩や腰の痛みなど。温度は湯殿41度、野天37度とぬるめ。野天では2時間以上つかる人も目立つ。
年中無休。営業は午前8時~午後8時。休日は関西からも客が訪れるが、旅行会社のツアーは断っているという。「けがを癒やしに来るお客さんが入れなくなるから」と春日さん。そのこだわりが無性にうれしかった。【竹内良和】