1月7日12時1分配信 毎日新聞
◇期待外れ、円高が追い打ち 地元で新しい試みも
北海道洞爺湖サミットから半年。雪に覆われた洞爺湖温泉街(胆振管内洞爺湖町)は昨夏の喧噪(けんそう)を忘れたかのようにひっそりと静まり返っていた。
サミットに合わせギャラリーが開設されていた建物前には「売物件」の看板が立てられ、目抜き通りにはシャッターを閉ざした店舗が並ぶ。「すっかり元に戻ったね。不景気でさらに悪くなるばかり」と土産物店の女性店員(52)。店内には「サミット開催記念商品」と書かれたTシャツやエコバッグが所在なげに陳列されていた。
サミット開催前、温泉街は「警備が厳しい」などの風評被害に遭って観光客集めに苦心し、開催中は政府関係者や警察官が宿泊するため一般客を制限。それだけに関係者の「アフターサミット」への期待は大きかった。
しかし、洞爺湖町によると観光客は8月以降、前年同月比5~15%減で推移している。ガソリン高騰で道内客の出足が鈍ったうえに円高の影響で韓国人観光客が半減。北海ホテルの篠原一専務は「毎年満室になる年末年始も今年は2割近く空室だった」と嘆く。
「いかにサミットでも今の情勢にはかなわない」。サミット効果を期待していた長崎良夫・洞爺湖町長は世界経済の混乱による「逆風」をこう表現する。それでも「サミットを成功させようとこれまでにない連帯感ができた。いい形で残して伸ばせば徐々に効果は出てくるのでないか」と希望は捨てていない。
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12月中旬、温泉街は久々ににぎわいを見せた。洞爺湖温泉飲食店組合が中心となり、宿泊代と飲食店での夕食、スナックでの2次会(飲み放題)を組み合わせた格安パック「グデングデンヘブンツアー」(6000~9500円)を5日間限定で売り出したところ、閑散期にもかかわらず200人以上が参加した。「サミットを境に街全体で何かをやろうという機運が出てきた」。秋田康夫組合長は熱っぽく語る。
洞爺湖温泉街のホテルはこれまで、宿泊客に食事や土産の購入もホテル内でしてもらう「囲い込み」の発想が強く、飲食店との溝が広がっていた。しかし、今回は飲食店組合が旅館組合や商工会に声をかけ、初めて共同でツアーを企画。秋田組合長は「お客さんも喜んでくれて手応えはあった。ぜひ次につなげたい」という。
ホテルグランドトーヤの来栖正光専務が9月に地域の仲間約10人とスタートさせた「洞爺エコリゾ・プロジェクト委員会」は「環境」と「健康」を組み合わせたツアー商品の開発を進める。10月に試行した「メタボリック対策モニターツアー」では地元食材を使ったヘルシーメニューや洞爺湖畔のヨガウオーキングなどを取り入れ、参加者から「減量のきっかけができた」などの声が寄せられた。
「『サミットがありました』だけではすぐ忘れられる。『洞爺湖』が再び取り上げてもらえるような情報発信をどんどんしていきたい」と来栖専務。サミット効果はまだ数字に表れていないが、新たな芽は出始めている。
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観光客増への期待と環境ブームに沸いた北海道洞爺湖サミット。半年たって迎えた新年は、あれが単なる「祭り」だったのか、北海道の未来を切り開く「糧」となったのかが試される元年といえる。サミットが遺(のこ)したものを考える。
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■ことば
◇北海道洞爺湖サミット
08年7月7~9日、胆振管内洞爺湖町のザ・ウィンザーホテル洞爺で開かれた主要国(G8)首脳会議。アジア、アフリカなどからも14カ国の首脳が参加し、地球環境問題やテロ対策などを話し合った。日本開催は00年の九州・沖縄サミット以来で、全国から警察官約2万1000人が動員され、報道関係者も内外から約4000人が集まった。各国政府関係者らは洞爺湖温泉や登別温泉、札幌市内のホテルなどに滞在。北海道経済連合会はサミット開催に伴う経済効果を約350億円、ポスト・サミット効果は開催後5年間で284億円に上ると試算している。