2月23日14時1分配信 毎日新聞
酒と銭湯が大好きで医者と薬が大嫌いだった落語家、古今亭志ん生は1973年に83歳で亡くなった。晩年は脳出血のため自宅で静養していたが、亡くなる前の晩に言った。「おい、酒くれよ」
介護をしていた長女の美濃部美津子さんは、それまで体のことを考えて水で薄めた酒を出していた。志ん生は「このごろの酒は水くさくなったなー」。しかし、その晩は感じるところがあって「ちゃんとしたお酒」を飲ませてあげた。
「あー、酒はうまいなー。やっぱり酒はうまいよ」。志ん生はそう言って横になった。翌朝、声をかけると返事がない。「全然苦しまず、最期にお酒を飲んで。極楽大往生でした」
以上は「お姉さん美濃部美津子 つかちゃん塚越孝の極め付き志ん生」というCDに収録された美濃部さんの話。
うらやましい逝き方だ。娘に介護してもらい、最期に好きな酒を飲めた。病院ではなく、自宅で亡くなった。厚生労働省の統計を見ると、志ん生が亡くなったころは、人が亡くなる場所は自宅が多かったが、今は病院が圧倒的に多い。
もちろん病院は一義的には病を治すところ。しかし、私たちが最期を迎える場所としても、その存在を無視できない。だからこそ病院は信頼できるものであってほしい。
老朽化した長崎市立市民病院の建て替え問題で、市は県が提案していた日赤長崎原爆病院との統合案を拒否。新しい市民病院は現在地とその周辺で建て替えられることになった。市の案、県の案、どちらがいいのか最後までよくわからなかったが、市の案でも医師確保などに不安は残る。
「すみませーん。先生はいま他の患者さんで忙しくて手が離せないんです」。最期を迎えるにあたって、病院のベッドでそう言われるくらいなら、志ん生のように自宅で往生といきたいが。<長崎支局長・前田岳郁(たけふみ)>
〔長崎版〕