中部横断道の全線開通 課題も浮き彫り 山梨

3月5日8時1分配信 産経新聞

 山梨県内を縦に貫く「中部横断自動車道」の県内区間が、10年以内に全線開通となる見通しだ。海に面した静岡県と一直線で結ばれるため、山梨県内では経済や観光面の効果を期待する声が高まっている。こうした中、県が昨年6月に発足させた「活性化構想策定協議会」(会長・伊藤洋山梨大名誉教授)が2月中旬、横内正明知事に提案書を出した。ただし、全線開通を手放しで喜べない、解決すべき課題も浮き彫りになった。(花岡文也)

 中部横断道沿線の南部エリア(身延、南部、早川の3町)では20年後に人口が半減、観光客も微減傾向が続く-。昨年8月、学識経験者や市町村長らを集めて開かれた活性化構想策定協議会の第2回協議会で、事務局の県はこんな将来予測を提示。同エリアの関係者は表情をこわばらせた。

 同じ予測で、北部エリア(南アルプス、甲斐、中央の3市と昭和町)の人口はほぼ横ばい。中部エリア(市川三郷、増穂、鰍沢の3町)は人口はやや減少するものの観光客は微増し、南部エリアのより厳しい状況が浮き彫りになった。

 ただ、これは「中部横断道の開通を加味していない数字」(県)。県は中部横断道と状況の似た磐越自動車道(福島県いわき市~新潟市、平成9年全線開通)の状況も提示。開通によって活性化する地域が出る半面、一部で人口減が加速する“ストロー現象”と呼ばれる状況が生まれていることが指摘された。

 伊藤会長は「決してうれしくなるデータではないが、(中部横断道では)10年先を考え、何をすべきか考えたい」と話し、議論を深めていった。

                  ◇

 中部横断道は現在、中央自動車道の双葉ジャンクション(甲斐市)で分岐し、増穂ICまでの約16キロが完成している。

 増穂以南でも、増穂IC~仮称六郷IC(市川三郷町)と仮称富沢IC(南部町)~静岡・仮称吉原ジャンクションは、中日本高速道路がそれぞれ平成28、29年度の完成を目指し工事開始。六郷~富沢間の28キロは国が整備する新直轄方式区間で、3月中に工事着手し、中日本と同様時期に完成する見通しだ。

 道路の途中で整備主体が変わるのは、一部道路が18年2月に開かれた国土交通省の審議機関「国土開発幹線自動車道建設会議」(国幹会議)で新直轄区間に切り替わったため。中部横断道は「採算性が極めて厳しい」(国交省関係者)道路で、これまで造り続けてきた全国の高速道路整備を抑制する中で、「苦肉の策」(同)が取られたのだ。

 さらに同道路をめぐっては横内知事が平成19年、新直轄方式区間の県民負担の軽減を総務省に掛け合い、地方交付税の特別措置を得て150億円減の約30億円に減額された経緯もある。

 こうした“税金”を費やす道路ながら、「(完成済みの中部横断道も)あまり利用していないなあ」(沿線の首長)という現状をどうするかが問われている。

                  ◇

 活性化構想策定協議会では3つのエリアごとの協議を経て、2月4日に最終の第3回協議会を開催。伊藤会長と南部エリアの複数の町長の間で激しいやり取りが生じた。

 「もっと打って出ないと…」「夢があってもいい」と話す町長に、伊藤会長は「過度に理想を追い求めるのでなく、足元を固めることが重要」と説得、提案書の内容をまとめた。

 提案書では首都圏と中京圏に近く、太平洋と日本海とを結ぶ位置にある県の強みを生かし、双葉JCT~増穂IC間に国際物流中継基地を設けることを提案。しかし、全体的には「地産地消」を掲げ、地域内で活性化する必要性を説いた。

 例えば南部エリアでは、下部温泉の魅力づくりや身延山との連携、地域特産品づくりなど地道な努力が記され、この内容に南部エリアの町長が不満を示したのだった。

 県は3月末に提案書をもとに活性化構想を策定予定で、横内知事は「南部エリアの南には人口100万人近い静岡市があり、ニーズをつかめばさまざまな可能性が出る」と期待を込める。ただ、ニーズをつかむには南部エリアが地域の魅力を磨き直すことが必要となりそうだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA