2女児虐待死事件 札幌地裁、稲見淳被告に懲役17年を宣告

06年9月に札幌市内のマンションで同居する女性の娘2人を虐待して死亡させたとして、殺人や死体遺棄などの罪に問われた稲見淳被告(33)の判決公判が、30日午後1時30分から札幌地裁で開かれた。

 嶋原文雄裁判長は公判の争点であり、稲見被告の暴行後、放置されて死亡した長女(当時4歳)に対する罪には殺人罪を適用せず、傷害致死を認定、稲見被告に懲役17年(求刑・懲役25年)を言い渡した。

 事件は、稲見被告と交際していた2女児の母親(稲見被告と共謀したとして死体遺棄罪と保護責任者遺棄致死罪で懲役4年の刑が確定)が、06年9月23日、娘を殺された恐怖心から近所にあるホテルに駆け込んだことを契機に発覚した。

 稲見被告が起訴された罪状は次の4つ。

 [傷害致死] 同月7日、交際相手の次女・陽菜ちゃん(当時3)に腹筋をさせた際、床に肘をついたことに激昂し、逆さ吊りにして前後に振り、窒息死させた疑い。

 [暴行] 同月16日、2児の母親に対して頭部や背中を踏みつけるなど暴行を加えた疑い。

 [殺人] 同月20日、長女・今野星菜ちゃん(当時4)が服に付けたカレーの食べこぼしを隠したことに怒り、自宅風呂場で頭部を殴打。身体をえび反りにするなどして意識不明となった星菜ちゃんを病院に搬送せず約21時間放置、翌日、硬膜下血腫で死なせた疑い。

 [死体遺棄] 2女児の遺体を布団圧縮袋に入れ、段ボールに詰めてクローゼットに遺棄した疑い。

 以上のように、非道の限りを尽くした稲見被告に対し、検察官は07年9月3日の論告で懲役25年を求刑した。

 一方、最終弁論で弁護人は「(星菜ちゃんの死について)極めて重篤で、すぐに救急車で運んでも救命できなかった可能性もある」などとし、殺人罪でなく保護責任者遺棄罪にとどまると主張して結審した。

 ところが、嶋原裁判長は検察官に星菜ちゃんの救命の可能性(殺人罪適用の成否)について医学的見地からの追加立証を求め、判決の言い渡しを延期した。さらに再開した公判でも、検察官に殺人罪の予備的訴因に傷害致死罪を追加する命令を下し、審理を再開させた。

 検察官は今年8月18日、実に3度目となる論告で傷害致死罪が適用された場合であっても従来通りとして、懲役25年を求刑した。

 弁護人は2度の判決延期に対し、「強引な訴訟指揮」だとして最高裁に特別抗告したが、いずれも棄却された。9月17日に開かれた最終弁論公判で「嶋原裁判長以下、刑事第1部合議係には失望している。違法な訴因変更命令を出し、強行に審理を進めた裁判所には何も期待していない」などと痛烈に批判した。

 30日に言い渡された判決によると、札幌地裁は星菜ちゃんの殺人罪に対して、「(星菜ちゃんの)救命の可能性は極めて少なかった」とした弁護側の証人として出廷した医師の所見を「矛盾はなく、不合理とは言えない。救命や延命の可能性があったとまでは認められず、殺人罪の実行行為性を欠く」と判断し、予備的訴因に追加させた傷害致死を適用した。

 嶋原裁判長は「(被告人の)甚だ身勝手な動機や経緯には酌量の余地は全くない。(長女が)重篤な意識障害を呈しているのをはた目に、出産間近であった飼い犬の体調を気にしてばかりいるなど、常識では考えられない行動をとっている点も強く非難される。陽菜や星菜に落ち度が全くないことは言うまでもない。理不尽な暴力を受けて苦しんだ末、わずか3歳あるいは4歳で将来を奪われたのであって、その肉体的苦痛や恐怖心などの精神的苦痛は察するに余りあり、哀れというほかない。とりわけ2人の幼い子どもを約2週間の間に相次いで死亡させたという本件の特異性に照らすと、被告人の刑事責任は重大。他方で、2人の死体を携えて警察に出頭し、反省の態度、改悛の情などを示していること、被告人自身も父親から虐待を受けていた生い立ちが本件の背景の一つとなっていることも否定できないなど、酌むべき事情も認められる」と量刑の理由を述べた。

 坊主頭にフリース素材の黒いジャンパー、色褪せたジーンズ姿で出廷した稲見被告は、微動だにせず裁判官を見据え、判決に耳を傾けた。

 最後に嶋原裁判長が「この事件では審理が長引いたことについて、裁判所としては被告人のみならず、遺族にも申し訳ない気持ちがあります。しかし、本件は複雑な事実を明らかにするために医学的見地から立証する必要がありました。いずれにしても被告人の行為で幼い2つの命が奪われたことに間違いはありません。このことをよく考えながら長い刑に服してください」と述べた。

 稲見被告は小さく頷きながら「はい」と答えた。(文、写真・糸田 午後7時30分更新)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA