きわめる:北陸の達人 ごみ一筋40年、石川県立大教授・高月紘さん /石川

11月21日17時34分配信 毎日新聞

 ◇大量廃棄社会に警鐘 現場主義に徹し--高月紘さん(67)
 廃棄物の研究に携わること40年。ごみ問題にもの申せば、しばしば生産、利潤至上の大企業から疎まれる。「私はね、『×』の先生なんですよ」。屈託ない笑いに、市民、消費者の視点に徹した自負がにじむ。
 京都大を65年に卒業後、大学院で廃棄物処理を研究。水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく……。公害が社会問題化し、大量生産・消費・廃棄の深刻さがようやく認識された時期だ。
 「誰もやっていない。指導者もいない。それが強み」。工場に出向き、水処理で出た大量の汚泥に埋もれ、塩ビくずを持ち帰っては実験室で燃やした。マスクもなし。「今思えばダイオキシンまみれ」。銭湯で髪を洗うと湯は真っ黒になった。
 「机の上で考えるだけというのは抵抗がありますね」。徹底した現場主義が社会を動かした。80年から毎年、京都市と組んで家庭ごみの詳細な調査を進めた。プラスチックならトレーかラップかレジ袋か。300項目に徹底分類した。ひたすらごみ袋を開ける「苦行」だが、食品パックなど容器包装は6割を占めていることが分かった。五感でつかんだデータは、容器包装リサイクル法(95年)など各種政策の基礎資料に使われている。
 05年4月、新設の石川県立大に赴任。CO2排出など環境負荷の少ない地元産業のあり方を模索する。「木から作る漆器はプラスチック器より負荷が少ない。環境面から伝統産業に勇気を与えられる」。実践の姿勢も変わらない。卓上には有機農業研究の一環で学生たちと作った米の袋。「下流のごみから始め、やっと上流の農にたどり着いた」。
 「×の先生」は驚くべき数字を示す。家庭ごみ調査では食品ごみの1割が封も切らぬ「手つかず」でうち6割が賞味期限前。国内で出る残飯を価格換算すると11・1兆円(99年、国試算)、農業、水産業の国内生産額の10兆円(07年度)を超えるのだ。
 柔和な目元が、厳しくなった。「こんな暮らしは続かない」。物と欲の流れ着く先を見つめ続けた慧(けい)眼の発する警告だ。【野上哲】
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 ■人物略歴
 ◇たかつき・ひろし
 京都市生まれ。京都大環境保全センター教授を経て石川県立大生物資源工学研究所教授。「3R検定」実行委代表。「日本のごみ問題の縮図」と強調する香川県・豊島の産廃不法投棄事件では、国や県の専門委員として深くかかわった。ペンネーム「ハイムーン」の環境漫画家としても知られる。趣味は陶芸。マイカーは持たず、バス通勤。

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