12月8日11時37分配信 産経新聞
平成16年10月の台風23号で浸水被害を受けた兵庫県宝塚、西宮両市境にある武田尾温泉の老舗旅館「紅葉舘」が12日、約4年ぶりに営業を再開する。廃業の危機を乗り越え、新館を建て替えての再スタート。松本孝一社長(65)は「もう一度、多くの人に愛される旅館を作りたい」と話している。
武田尾温泉は武庫川上流の渓谷沿いに4軒の旅館がある。サクラを守り育てる職人を描いた作家、水上勉の小説「櫻守」の舞台としても知られ、サクラや紅葉の季節には多くの観光客が訪れる。
4年前の10月22日夕、日本列島を襲った台風23号では、河川の増水で旅館2軒が浸水。明治26年に創業した紅葉舘も1階部分が被害に遭い、館内に大量の土砂や流木が流れ込んだ。
紅葉舘は昭和58年と平成11年にも、台風や梅雨前線の影響で浸水し、約1カ月間の休業を余儀なくされた。松本社長は河川を管理する県に対し、安全確保のため護岸工事を求めたが、交渉は長期化。再開の見通しが立たず、一時は廃業も考えたという。
再建を支えたのは、数百件に及んだ常連客の再開を望む声。「伝統ある旅館を途絶えさせてはいけない」と粘り強く交渉を続け、昨年10月、県の所有地との交換が決まった。
今年5月、総事業費約8億円で新館建設に着工。約200人が宿泊できた旧館から規模は縮小するが、12室のコテージを設けるなど、くつろぎやすい旅館にし、名称も「紅葉舘 別庭 あざれ」に改称する。
女将の松本富子さん(59)は「当時は周囲から孤立し、営業再開を考える余裕もなかった」と振り返り、松本社長は「4年間苦しかったが、支えてくれたお客さまに恩返しができるような旅館にしたい」と話している。