12月13日14時58分配信 読売新聞
「混浴」が若い女性らに人気だという。見知らぬ異性と一緒の入浴に抵抗はないのかしら。
波打ち際まで数メートル、海原の絶景を眺めながら入浴できる静岡県東伊豆町の混浴露天風呂「黒根岩風呂」。休日、朝から家族連れや若いカップルでにぎわう。もちろん、女性の姿も。
川崎市の会社員佐々木千枝さん(29)は「ふつうの温泉は彼と一緒に入れない。混浴は最初は恥ずかしいけど、彼がそばにいてくれるし、気になりません」。妻子や同僚の家族と一緒に入浴した東京都目黒区の会社員尾関義紀さん(38)は「男女別だと、たまの休日なのにみんなで楽しめませんから」とリラックスしていた。
同風呂を管理する北川(ほっかわ)温泉観光協会の大住絹代さん(52)によると、入浴客はグループや夫婦、カップルが大半。昨年度は男性約3万人に対し、女性は約1万7000人だが、ここ数年は女性客が目立つという。大住さんは「女性が圧倒的に多い日もある。昔は考えられなかった」と話す。
10月下旬に混浴温泉の魅力を紹介する本「だから混浴はやめられない」を出版した温泉エッセイストの山崎まゆみさんには、女性から相次いでメールなどで感想が寄せられている。
「私の本は男性がこっそり立ち読みするものと想像していたのに、女性からの反響が意外に大きかった」と山崎さんは驚く。出版からひと月足らずで3刷を重ね、「女性の方が好奇心旺盛かも。今の若い子は見知らぬ人に肌をさらすことにもあっけらかんとしているみたいですね」と話す。
ただ、混浴経験のなかった入浴客が増えるにつれ、マナー違反が老舗の湯治場を困惑させている。江戸時代から続く、青森ヒバ造りの大浴場が人気の酸ヶ湯(すかゆ)温泉(青森市)では5年ほど前から、「男性の視線が気になる」という女性客の苦情が増えた。
浴場内に男女を分けるしきり板を設けたものの、常連の湯治客が「狭苦しい」と反発したため、ほどなく取り払った。これをきっかけに、老若男女がゆったりと疲れを癒やす雰囲気を守ろうと、2005年、同温泉の利用客らが「混浴を守る会」をつくった。
「入浴者は異性の入浴者を好奇の目で見るべからず」などの入浴三か条を定め、浴場の入り口には「見ればまいね 見せればまいね(見てはいけません、見せてはいけません)」の標語も。全国に約9000人の会員がおり、今年4、5月の連休には会員が入浴客にマナー向上を呼びかけた。温泉運営会社の山形太郎さん(35)は「八甲田の自然をめでながら、都会とは違う時間の流れの中で混浴を楽しんでほしい」と力説する。
温泉に詳しい「温泉地活性化研究会」代表、谷口清和さん(58)によると、インターネットで「混浴」の文字を見つけ、好奇心から日帰りで入浴に来るケースが増え、入浴風景をのぞいていくだけの人もいるという。
女性客のそばで、水面からじっと獲物をねらうように頭を出して、長時間の入浴を続ける“ワニ男”と呼ばれる不届き者の出没も指摘されている。谷口さんは「相手を気遣う混浴のルールが守られていない」と嘆く。「男性も『女性から疑われているのではないか』と思うと落ち着いて入浴できない。男女ともに『見て見ぬふり』も大事な礼儀。互いに入りやすい雰囲気を作ってほしいですね」
記者も混浴露天風呂に初挑戦した。バスタオルを巻いたが、恥ずかしくて1歩が踏み出せない。えいっ。だが、入ってみると、だんだんと視線が気にならなくなり、入浴客との会話も楽しい。これはいいかも。(吉永亜希子)