12月18日13時46分配信 +D Mobile
auの2008年秋冬モデルの中で、唯一IPX5/IPX7相当の防水性能を備えた“お風呂ワンセグ”端末が京セラの「W65K」だ。防水WIN端末としては最薄・最軽量を実現したボディは、一見しただけでは防水端末には見えないほどコンパクト。さらに、ボディカラーごとに異なる背面デザインを施している点も目を引く。しかもこれは、京セラとしては初めて手がけた防水WIN端末だというのだから驚きだ。
デザイン的な魅力があるのはもちろん、機能面でも基本をしっかり押さえた使いやすさを備えている。ワンセグやおサイフケータイ(EZ FeliCa)といった、普段使いに必須の機能はしっかり搭載。ワンセグは予約録画機能やバックグラウンド録画機能なども備え、番組のジャンルに合わせて画質を調整してくれるなど、上位機種にも引けを取らない使い勝手を実現した。さらに、待受画面でダイヤルキーの操作をすると、電話をかけるだけでなくメモの作成やインターネット検索ができる「すぐ文字」、ほかの機能と併用すると、画面上に進捗を表示できる「カウントダウンタイマー」など、独自の機能も用意している。
この、一見カジュアルながらしっかりと作り込まれているW65Kに込めた思いを、移動体通信機器第一統括事業部 移動体第一技術部端末第3技術部 機構開発1課 責任者の大和田靖彦氏、通信機器関連事業本部 マーケティング部 マーケティング課 PM2係 責任者の若狭哲史氏と、通信機器関連事業本部 マーケティング部 商品戦略部 デザイン課 デザイン1係の光永直喜氏に聞いた。
●防水を実現しつつ、必要な機能はすべて用意した
── 今回、W65Kを開発するに当たって、もっとも重視したポイントはどこですか?
若狭氏哲史氏(以下若狭氏) 一番こだわった部分は防水性能とサイズ感の両立です。ユーザーがケータイに何を求めているのか調査をした結果、最も重視されていたのは防水機能だったのですが、それに付随する要素としてサイズ感が非常に重要であることが分かりました。まずサイズ感に対する要望(大きすぎないこと、操作しやすいこと)が先にあり、その後に機能がフルに使えるかどうか、といった機能に対する要望がありました。
今までの防水モデルは、サイズの小ささやボディの軽さを求めると、ワンセグのような当たり前の機能がない、といったことがありました。また一方で、すべての機能を搭載したモデルでは、今度は分厚かったり重かったりしました。京セラとしては、使い易いサイズ感で機能をキッチリと入れるということにこだわっていましたので、今回は防水を実現しつつ、しっかりとバランスのとれた端末に仕上げられたと思います。
── W65Kは、京セラとしては初めての防水端末だそうですね。おそらくいろいろな挑戦があったのだと思いますが、それでいてこのサイズ感やデザインが実現できた点には驚きました。
若狭氏 そうですね。W65Kは京セラでは初の防水端末になります。
大和田靖彦氏(以下大和田氏) auの防水端末には、「大きい」「厚い」というイメージが強いように思います。その中で京セラとしては、初めての挑戦ではあっても「え? これ防水ケータイなの?」とユーザーに思っていただけるような端末を作りたいという思いがありました。
W65Kは、進化の系譜としては「W53K」の後継に位置づけられます。2006年にリリースした薄型WIN端末「W44K」があり、それが2007年に薄型のままワンセグが付いたW53Kとなって、それが今回さらに進化してFeliCaと防水機能が付いたW65Kになったわけです。実は私はW44Kのころからずっとこのシリーズの開発に携わっていて、“スリム端末の進化”の末に、今回の「スリムワンセグ防水」という領域にたどり着けたのはよかったと思います。ただ、ここまでのものに仕上げるのはなかなか大変でした。
ボディは、単純に機能を積み上げていっただけではどうしても厚くなってしまいます。そこでディスプレイやバッテリーといったモジュール単位で小型・薄型のものを探し、薄くする工夫をしました。特にこの厚さを実現するのに大きな役割を果たしたのが、3.7ボルト 680mAhのバッテリーです。バッテリー容量が小さいと通話時間や待受時間、ワンセグの連続視聴時間などが短くなるのではないかと皆さんに不安視されますが、そこは通常のバッテリーと比べても遜色ないように、省電力化などの工夫により従来と同等の使用時間を達成しました。この点では、ハードウェアの設計の方に苦労を掛けました。
防水の面でも、やはりIPX5とIPX7という規格は必ずクリアしなければいけないということで、社内的にもきちんとスペックを決め、今回のために水槽なども新たに用意してテストをしました。さまざまな利用シーンを想定し、落下試験や高温試験なども行っています。
── 116グラムという重量も、防水端末としては軽いですね。
若狭氏 W65Kの重量は、他社の薄型防水ケータイよりもさらに10グラム以上軽いです。携帯電話としてかなり使いやすく、バランスのいい重さになっているのではないかと思います。重さは防水ワンセグ端末の中で最も軽いと思います。
大和田氏 もともと京セラは、ストレート端末全盛の時代から端末の軽量化には実績があるメーカーです。開発チームの中でも当たり前というか、自然と軽量化するのが身に付いてしまっているんでしょうね。重量を測ったら116グラムしかなくて驚いたというエピソードもあります(笑)。
若狭氏 あまり極端に薄くはせずに、一定の使いやすい厚さを確保しつつ、そこにいろいろと機能を入れていこうというのがW44K以来のコンセプトなので、今回はきっちりとワンセグや防水というものを入れた中で、使いやすいサイズ感というものを実現できたと思います。
── W44Kが発売されたころに、開発者の方から「あまりに薄すぎるとそれはそれで使いにくい」といったお話を伺った事があります。今回も厚さは15ミリ台に収めたわけですが、防水端末で実現するというのは凄いですね。
大和田氏 ベストスリムゾーンですね(笑)。あまり薄すぎたり軽すぎたりしても、オモチャみたいな感覚だという方もいらっしゃいますし、“本当に使いやすいところ”を見極めるのは難しいんです。
若狭氏 防水である点をいかにユーザーにアピールするか、という点も悩んだポイントです。一番分かりやすい例は、店頭に展示するモックアップに防水であることを示すシールを貼ることなのですが、今回はそれに加えて、もう少し利用シーンをイメージしやすいように、プロモーション用のWebドラマを制作しました。それをCMや店頭で流す事で、分かりやすさやイメージのしやすさを意識しています。
WebドラマはW65Kの3つのデザインに合わせた世界観で制作しています。例えばホワイトではキッチンで料理を作っている時に濡れた手で着信を受けてメールを見たり、シルバーでは雨の中で端末が濡れてしまうシーンがあったり、日常よくあるシーンの中で、ケータイをこういう風に使っても大丈夫なんだよというのが自然に伝わり、端末の魅力が引き出せるように配慮しました。
魅力的な防水端末を作ろうとすると、どんどん防水端末に見えなくなっていくというジレンマもあります。今回は、その点はプロモーションによってカバーしています。
── “お風呂でワンセグ”というコンセプトもあるようですが、お風呂って案外ワンセグが入りにくかったりしますよね。そのあたりは何か工夫がありますか?
大和田氏 実はお風呂場というのは、ワンセグを視聴するのに適した場所とはいいにくいのが問題でした。マンションなどでは、建物の奥の方にあることも多く、窓があったりして電波が入りやすい環境であることはむしろ珍しいんです。でも、湯船に浸かりながら、ワンセグの電波を探して腕を上に挙げて探すようではダメだろうと考えました。ですから、一般的な家のお風呂で観る分には満足できる性能を出せるように、ホイップアンテナは3段まで伸ばせるようにして、ワンセグの感度がしっかり取れるようにしています。
●“遊び心”のある端末を目指した3つのバリエーション
── 端末をデザインしたときのコンセプトを教えてください
光永直喜氏(以下光永氏) 今回のデザインは、女性をターゲットにしているのですが、若い女性の方にはさまざまな趣味嗜好の方がいらっしゃいます。服やアクセサリーも、必ずしもシンプルなものを求めているのではなく、いろいろなスタイルやファッションをしています。そういった幅広い嗜好を持った女性に合わせ、今回あえて3つのカラーバリエーションごとに背面の金型を全て新規で起こすという形にしました。
それぞれのカラーバリエーションごとにコンセプトがあります。クレールホワイトはシンプル嗜好の女性に向けたクリーンなデザインです。フルールピンクは幻想的というか、カラフルなファッションが好きだったり、可愛らしいものが好きな女性を対象にしていて、花柄などの植物をイメージした彫り込みを用意しました。よくサイフやカバンなどでもこういった手法が見受けられますが、そこを意識しています。リュクスシルバーはゴージャスな大人の雰囲気の女性をターゲットにして、高輝度な質感というものを表現しています。
京セラ端末でご好評いただいている「インフォメーションキー」は、使いやすさを向上させつつ、キーやサブディスプレイ周りの質感を、3種類それぞれ全く違う手法で表現しています。ピンクは透明感と高輝度の質感、シルバーは金属のギラッとした質感、ホワイトは裏から光が浮かび上がるような処理を施し、端末のイメージに合わせてアレンジしています。
── スペックを見ていて、なぜこんなに厚さが違うのか不思議に思ったんですが、ここまで加工が違うと厚さも当然変わってきますね。
若狭氏 そうですね。リュクスシルバーの端末はかなりスクウェアな印象になっていて、そのほかの端末は少し丸みを持たせています。凹凸だけでなく、端末全体の印象もかなり違っていると思います。
リュクスシルバーのように、これだけ凹凸を付けたデザインの端末はほかにないんじゃないかと思います。今回CMやWebドラマなどを、端末ごとにシーンを分けて撮影しているんですが、このリュクスシルバーの端末のシーンは少し照明を落として暗めで撮影することが多く、その際にこの凹凸の形状が上手く光を拾っていて、かなりキラキラとした表情を見せてくれています。他のデザインとは対照的な作りです。
── ダイヤルキーの文字もカラーバリエーションごとに違いますね。
光永氏 今回カラーバリエーションごとに端末のイメージに合わせ、キートップのフォントからキーのデザインまで変えています。クレールホワイトに関しては背面がシンプルなので、少しキーに遊び心を加える事で、楽しい雰囲気を出しました。背面もキー面もシンプルだと、少しもの足りないかなぁと思いまして。フルールピンクとリュクスシルバーは、逆に背面が激しい印象なので、中は比較的落ち着いたイメージに仕上げています。
ただ、3つのバリエーションともにキーの押しやすさなどに配慮し、キーの出っ張りなどは通常のシートキーに比べて少しだけ高く出していて、キーの面積も比較的大きく取っています。クレールホワイトに関しては隣り合うキーの形が若干違うなど、ブラインドタッチする時の使い安さを考えた新しい試みも入れつつ、グラフィック的な面白さを出しています。クレールホワイトはほかにも、ダイヤルキー面に水の波紋のようなグラフィックが入っています。強く主張するものではありませんが、気付くと少し遊び心があるような、そういった仕上げにしています。
── そういった“遊び心”という部分は、ユーザーに端末を長く使ってもらうためのポイントとなるのでしょうか。
若狭氏 20代の女性は、デザインの中に何かが隠れているとか、少し楽しいところなどに惹かれる要素が多いという話を聞きます。ですから今回はそこを意識しています。例えばお風呂というと、典型的なシーンとしてアヒルのオモチャなどを連想しませんか。そういった遊び心をどこかに隠せないかなぁと思い、今回ワンセグアンテナの先に小さなアヒルを隠していたりします。
── これは言われないと気が付きませんね。もしかしたらずっと気付かない人もいるかも知れません。
若狭氏 言われないと気付かない部分ですが、知っている人は知っているという(笑)。例えば2年間使っていく中で探し出していただくくらいの、人に言われないと分からないような細かな遊び心をいろいろ入れて、飽きさせない工夫というのをしていければと思っています。
長く使っていただくという部分は、最近の携帯電話では大きなポイントになっていると思います。防水機能についても、お風呂の中で使えるというプラスの用途もあれば、雨の日に壊れにくい、水没などの事故が減るといった点で、長く使うのにいい機能かな、とも思います。ちょっとした汚れであれば水で洗い流すこともできます。そういった面でも防水はこれから先必要になってくる機能だと思います。
フルールピンクのデザインも、表の彫刻は植物のデザインという話をしましたが、実はその中に動物が紛れていたりとか、実際パッと見て気付かれなくても、言われてみると実は……というものを探していただくのも、遊び心につながるのかな、と思っています。
●キー入力後にアクションが選べる──すぐ文字機能は自信の機能
── W65Kならではの機能というのは、どんなものがありますか。
若狭氏 新しい機能としては、「すぐ文字機能」がありますね。待受画面で何かを入力すると、電話をかけるだけでなく、その入力内容を「ペタメモ」にしたり、インターネットで検索したりできます。京セラオリジナルの機能ですが、auや販売店での反応は非常によかったです。
実際に携帯電話の利用シーンを考えた時、毎日便利に使える機能があった方が嬉しいのかなぁという思いからすぐ文字機能は生まれました。入力してからアクションを選べるのは、なかなか便利だと思います。
またカメラ機能の起動時や保存時のパフォーマンスも、従来よりも向上しています。オートフォーカスのピントが合う速度も上がっていますので、かなり軽快に撮影ができるのではないでしょうか。カメラの画質以上に、使い勝手の面で大幅に改善しています。
── プリインストールのコンテンツなどにもオリジナルのものがあったりしますか?
若狭氏 先程お話ししましたWebドラマの主題歌が、河口恭吾さんの「未来色プロポーズ」という曲なのですが、W65Kの購入者特典として、そのアコースティックバージョンがダウンロードできるようになっています。これはW65Kのユーザーしかダウンロードできない特別版で、現在の着うたに加えて着うたフルでの提供も考えています。
── 最後に、W65Kの開発にまつわる思い出深いエピソードなどがあれば教えて下さい。
大和田氏 やはり外観にバリエーションを付けるのは大変でした。全てのバリエーションで防水機能を持たせなければいけなかったので、よくぞこれだけの期間で3種類も作ったなぁという感じです。
光永氏 私も端末を3つデザインするのに近いような作業だったのが大変でした。また“全然違うものを1つのものとして見せる”というところも結構大変で、その辺りをどういうコンセプトでどのような見せ方をしていくのかをしっかり考える必要があり、なかなか難しかったです。あとは“防水なんだけど防水らしくない”、あくまでもデザインとしてスッキリと見せたいというところがありましたので、技術の方とは表にネジが出ないよう配置などを工夫してもらいながら、できる限りのところで議論を詰めながらやれたのが大きかったかな、と思います。
若狭氏 正直ほぼ全ての部分に思い入れは強いのですが、強いて挙げるとすれば「すぐ文字機能」です。京セラ内には、現在技術とマーケティングで部門横断的な“使い勝手に関するプロジェクト”があって、あれこれアイデアを出しているのですが、すぐ文字機能は私のいるグループの中から出た企画なんです。それを自分が担当しているモデルに搭載することができたというのがうれしかったですね。いろいろな方に評価されている機能なので、それがユーザーの満足につながればいいな、と思っています。
京セラとしては初めての防水端末の開発だったが、防水は薄型軽量で人気を博したW44Kからの正常進化を続けてたどり着いた、いわば“必然”と言える機能だったようだ。メインターゲットは女性とのことだったが、クレールホワイトやリュクスシルバーは男性が持っても違和感のない色合い。厚すぎず、薄すぎない、ほどよいサイズ感でワンセグやFeliCaなど必要な機能を備えたW65Kは、コンパクトな防水ケータイを求めていたユーザーに、改めて目を向けてもらいたいモデルだ。