【特報 追う・2008年回顧】セクハラ騒動なまはげ反省?

12月24日8時2分配信 産経新聞

 昨年大みそか、男鹿温泉郷で起きた、なまはげによる女湯乱入とセクハラ騒動。当時、インターネットの掲示板にはスレッドが乱立し、地元関係者は「なまはげが悪事を働き『悪い子はいねがー!』と戒められない」と頭を抱えた。一時は行政主導による“暴れ方統一マニュアル”の作成案まで持ち上がったが、さすがに「行き過ぎ」との声が大きく立ち消えとなった。あれから約1年、間近に迫った今年のなまはげはどうなるのか。(宮原啓彰)

   男鹿のなまはげは地区ごとに形式やしきたりが異なり、数百年をかけおのおのが独自の発展を遂げてきた。そのため、50年ほど前に誕生した男鹿温泉郷はなまはげを持たず、毎年、隣接する2つの地区からなまはげが出張して宿泊客らに行事を実施してきた。

 不祥事を起こしたなまはげグループはこのうちの1地区。問題発覚後、男鹿温泉協同組合はこの地区のなまはげの3年間の出入り禁止を決め、「今年中に温泉郷に独自のなまはげを作りたい。観光用ではなく伝統にのっとった本物のなまはげが宿泊施設を訪れるようにする」としていた。

 だが、同組合の上野藤彦事務局長によると「その後、問題を起こした地区のなまはげは“無期限”の出入り禁止となった」という。また、「本物のなまはげを宿泊客に体験してもらうため、独自のなまはげの立ち上げは断念し、これまで来ていたもう一つの地区に引き続き派遣してもらうことで落ち着いた」。今年、温泉郷を回る予定の地区は「心して回るようにしたい」と例年以上に気を使っているようだ。「プレッシャーをかけ気の毒だと思う-」。上野事務局長は続けた。

 一方、不祥事を起こしたなまはげを送り出した地区は「今年のなまはげ行事の実施は未定で行わないかもしれない」(地区住民の女性、今月10日時点)と行事そのものの存続さえ危ぶまれていた。温泉町への無期限の出入り禁止には「ずっと温泉町側の要請でなまはげを派遣してきたのに…」(別の地区住民)との複雑な思いも残されたままだ。

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 今年1月末、「国の重要無形民俗文化財でもありルール作りが必要」(男鹿市)として同市役所で開かれた協議には、伊藤正孝副市長ら行政側と地区代表など地元のなまはげ関係者が出席。暴れ方統一マニュアルの作成は見送られ「伝統の原点へ回帰する」ことで一応の決着を見た。

 その後、行政から行事への介入もなく、「なまはげを守るため例年通り、伝統的なやり方で行いたい」と真山なまはげ伝承会の菅原昇会長。だが「今後、なまはげが“おとなしく”なる」との懸念を抱く地元関係者は多い。

 男鹿真山伝承館理事長で真山神社の武内信彦宮司は「マニュアルは作られずとも心理的な制約になる」とため息をつく。昨年、女湯に乱入された旅館関係者も「なまはげにふんする若者たちを中心に地元が受けたショックは根深い」と顔を曇らせた。「不祥事よりも急激な不景気の影響で今年は昨年に比べ宿泊予約客は少ない。今年から冬季は閉業する旅館も出てきた」

 上野事務局長は「温泉郷としては、冬の観光資源が乏しいなか、なまはげが来なくなることは辛い。旅館など受け入れ側の心境も変わる。(なまはげの動向を)より注意深く見ていくことになるだろう」と行事の実施者、受入者双方の“変化”を口にした。

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 武内宮司は「大みそかのなまはげは観光用ではなく荒々しいもの。昨年の問題行動のような行為は言語道断だが、本来のなまはげを続けるためにも観光客など迎える側にも多少の覚悟が必要だ。過敏な反応にならないことを願っている」とした。

 1年の災厄を祓うとされるなまはげ。一部の行き過ぎにより招いた災厄を自らの手で祓うことができるのか-。節目の年の瀬となりそうだ。

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 今年も特報「追う」では東北各地のさまざまな話題を取り上げた。「その後」を追った。

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【用語解説】なまはげセクハラ騒動

 昨年12月31日夜、秋田県男鹿市の男鹿温泉郷の旅館に訪れた6体のなまはげグループのうち1体が、女性浴場で入浴中の小学生の少女2人や20歳の女性ら母子4人の体を触り、別の宿泊施設5カ所でも、同グループによる女性客の胸を触るといったセクハラ不祥事が計7件判明した(同市観光課調べ)。「中学生の娘を触られた父親がなまはげを殴りつけた」「フロントの女性従業員が胸を触られた」(地元関係者)などと騒動は広がった。女湯に侵入した当時20歳の男性はなまはげに振る舞われるお神酒で泥酔していた。一方、被害者は男性が若年で反省、謝罪をしたため被害届を出さなかった。

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