1月9日8時4分配信 産経新聞
■宿泊ツアーで未知の商圏を
昨年12月4日、水戸市内の大手バス会社の一室。「近場でゆっくりと充実した旅をしたいという傾向があります」と旅行者の傾向を説明する担当者に対し、はっぴ姿の栃木県の観光関係者は「それなら栃木県がふさわしい。宿泊ツアーをつくってください」と頭を下げた。
この日、栃木県観光交流課や県内の観光協会などで構成する「やすらぎの栃木路」共同宣伝協議会は4班に分かれ、水戸市内のバス会社、マスコミ、観光物産協会を行脚した。
参加したのは、インターチェンジのある栃木市、鹿沼市の商工観光課職員や、那須ガーデンアウトレット、ハンターマウンテン塩原などの民間業者ら37人。前年の倍の“陳情団”となった。
栃木県内の観光地の関係者は、茨城-栃木間の開通による時間短縮で、県内の周遊先がもう1カ所増えると期待している。一方、栃木県観光協会の菅沼輝男事務局長は「栃木を通過して、群馬、新潟に行ってしまうのでは」と心配する。
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観光関係者によると、茨城県民にとって、「温泉」と「自然」のある栃木県は観光地として魅力的に映るという。みかも山公園(同県岩舟町)ではカタクリのシーズンになると、茨城県から3000~4000人のツアー客が訪れるという。水戸市内のあるバス会社は今春、鬼怒川温泉(栃木県日光市)の宿泊とイチゴ狩りを組み合わせたツアーを企画しており、約1000人の利用者を見込む。
東日本高速道路では、北関東道を利用した方が他の公共交通機関を利用した場合に比べて、時間短縮効果だけでなく費用も割安になると試算。3県の美術館、テーマパーク、神社などの観光スポットを列挙し、「県境を越える観光が容易に」と提案する。
北関東道の活用策を提言している宇都宮共和大の古池弘隆教授は「『海なし県』にこれまでなかった、新しいビジネスチャンスが生まれるのでは」とみる。
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栃木県観光交流課によると、物産展や北関東道開通プレイベントなど茨城県関連事業は平成18年度に1件だったが、19年度に5件、20年度は予定を含み8件にのぼった。全面開通が23年度に迫ったことで、今後、北関東3県の連携も本格化しそうだ。
しかし、栃木県産業労働観光部の小針務参事は「関西・九州方面や外国人の観光客の誘致では、相乗効果があるので手を携えることができるが、首都圏の観光客となるとライバルとなるのでやりづらい」と本音を明かす。
菅沼事務局長は「約300万人の茨城県という商圏が広がった。PR活動は今後も継続したい」と話す。未知の商圏への栃木県関係者の期待は高まっている。(鈴木正行)