九大三景:/7 箱崎 街の記憶、サイトに保存 /福岡

1月10日17時1分配信 毎日新聞

 「昔の学生さんはみんな、大きなどんぶりで何杯も食べて行きなさったよ」「へぇー」
 福岡市地下鉄箱崎九大前駅(東区)近く、小さな路地の奥に食堂「ふなこし」はある。10席に満たない狭いカウンターで、九州大学大学院で社会学を学ぶ益田仁さん(26)らが、メモを取りつつ店主の船越晴二さん(72)、寿子さん(68)夫婦の話に聴き入っていた。
 六本松に先立ち、伊都キャンパスへの移転が始まった九大箱崎キャンパス。07年には工学部などが全面移転し、箱崎の街は人影がめっきり減った。益田さんら社会学研究室の学生約20人が07年に設立した「箱崎九大記憶保存会」は、九大生の思い出が詰まった箱崎の「記憶」を形に残そうと、ノートとデジタルカメラを手に取材に歩いては、ネット上に記録し続けている。
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 益田さんにとって「ふなこし」は単に「安くてうまい」だけの店ではなかった。研究に行き詰まり、泣きながら店に行った時、店の人たちに何度となく励まされたことを忘れない。
 「多くの九大生が、それぞれの店をこの街に持っている。僕らにとって、箱崎は親のような存在」と益田さん。移転とともになじみの店が次々と街から消えていくのを見て「街への感謝の気持ちを表したい」と一念発起、研究室の後輩と保存会を作った。
 保存会に集う仲間の思いはさまざまだ。文学部3年の梶田枝里さん(20)は、六本松から箱崎に来たばかりで「最初は街への愛着はなかった」が、取材に歩く中で「お店の人たちが、通っていた学生すべての思い出を大切にしていた。九大生への親心に触れることができた」。今は活動に義務感さえ感じる。
 卒業後に北九州市で就職、大学職員として箱崎に帰ってきた大矢敦子さん(25)は、離れていた間に街が激変したのに衝撃を受け、保存会に参加した。「学生時代は近所のお店はあまり使っていなかったけど、活動を通じていろんなお店を知ることができた」と、箱崎の魅力を再発見している。
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 サイトを見て「懐かしい」と埼玉県からカンパを送ってきた卒業生。「通ってくれた子らが訪ねてきたら切ない」と、取材をやんわり拒んだ老舗銭湯の経営者――。それぞれがそれぞれの形で、九大とともにあった時代を大切にしているのが分かる。
 「小さな街の小さな記憶は、誰かが意識的に残さないと本当に消えてしまう」。益田さんらは「箱崎育ち」の自負を胸に、これからも街に埋もれた思い出を探し歩くつもりだ。
 サイトのアドレスはhttp://hakozaki‐kyudai.com/【尾中香尚里】
〔福岡都市圏版〕

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