1月10日13時1分配信 毎日新聞
◇「循環資源」と「エコフィード」に活路
天栄村牧之内にある飼料製造業「バイオワークス」(本社・福島市)の工場。山盛りに積まれたおからを従業員がブルドーザーですくい上げると、巨大なミキサーに次々と投入していった。
牧草やトウモロコシなどを主原料に、おからのほか、ビールや麦茶の搾りかすなども配合した同社独自のTMR(総合混合飼料)。主に乳牛の飼料として生産され、昨年から和牛用の生産も始まった。月産700トンは乳牛約800頭分の餌に相当する。紺野均社長(59)は「おからは栄養価が高く、捨てるのはもったいない。食いつきが良くなったと、農家の評判もまずまず」と話した。
紺野さんは96年7月、知人の浅岡芳樹さんらと同社を設立した。「日東紡」富久山事業所(郡山市)に勤めていた浅岡さんは、子会社の食品メーカーから出るおからの堆肥(たいひ)利用を進めていた。「環境問題に取り組もう」と話す浅岡さんの熱意に打たれ、紺野さんは共同事業を始めたが、1年目の堆肥売り上げは約200万円で、人件費もまかなえず赤字を自腹で補てんした。
翌97年3月、浅岡さんが工場で倒れ、急死。会社解散を決意したが、告別式で浅岡さんの妻から「何とか主人の遺志を継いでほしい」と懇願された。おからの高たんぱくを生かし、乳牛用飼料に活路を求めた。
酪農家は朝夕、トウモロコシや大豆などを混ぜ合わせて飼料を作る。高齢化が進む農家には重労働だった。「袋を開ければすぐ牛に与えられる飼料商品があれば」。保存がきき、牛の好む甘酸っぱさを求め、乳酸菌発酵の製法を導入した。
「安価で栄養ある飼料」を追求し、本宮市のアサヒビール工場から麦芽の搾りかす、栃木県那須塩原市のカゴメ工場からは麦茶の搾りかすを仕入れ、モヤシやしょうゆ工場からも副産物を調達した。「かすではなく『循環資源』と呼びたい。注目も高まり、やっと私たちの仕事が認められてきた」
安達太良山を望む大玉村玉井の國分農場の國分俊作社長(59)は01年から、パンの耳やインスタントラーメンの規格外品などをリサイクルした「エコフィード」に取り組んでいる。酒かすで発酵させた飼料を交雑種の牛に与え、ブランド牛「あだたら高原酵母牛」として売り出している。
飼料コストは通常の半分以下。発酵飼料は消化吸収が良く、肉質が柔らかく、アクや臭みが少なくなるという。近くの岳温泉の旅館で振る舞われ、最近では東山や磐梯熱海、飯坂などの各温泉地でも買い上げられている。
國分さんが「発酵」に取り組むきっかけは84年の台風だった。家畜のふん尿が周辺に漏れ出し、行政指導も受けた。ふん尿処理のため堆肥の発酵を研究し、さらに発酵飼料の開発へと進んだ。当初は同業者から「残飯で牛を育てるのか」と変な目で見られたが、01年には独自の「コクブ式リサイクルプラント」も製造した。現在は自前の発酵飼料で、農場の牛約1000頭のほとんどを養っている。
「同じ味の肉なら、安い方が客は満足できる。人間が食べるものだから、捨てるのはもったいない」と國分さん。人と牛の調和を目指したプラントには、「自然のゆめ」と名付けている。【蓬田正志、松本惇】