1月16日13時1分配信 毎日新聞
東伊豆町奈良本の静和病院(307床)をめぐる診療報酬不正受給事件で、下田署などは15日、病院長の吉田晃容疑者(69)を詐欺容疑で地検沼津支部に送検した。吉田容疑者は「医療をビジネスと割り切り、もうけるための仕組み作りに腐心していた」(病院関係者)とされる。吉田容疑者が作り上げたという同病院を使った“医療ビジネス”の実態と背景を探った。【山田毅、竹地広憲】
◇「患者は二の次」証言も
海岸沿いの熱川温泉から山間部を車で5分ほど走ると、小高い丘の上に巨大な病院が現れる。大阪で建設会社を経営していた吉田容疑者が自ら設計して建設、84年に開院した。病院関係者によると、現在約230人いる入院患者のほとんどは、東京都や神奈川県など首都圏から受け入れた生活保護受給者だという。
生活保護受給者の積極的な受け入れは、約10年前から始まったとみられる。当時、医療の必要性が低い高齢者が長期入院するケースが問題化し、長期入院者の受け皿となっていた療養型の病床を減らし、医療費を抑制することが課題になっていた。
その療養型病床を中心に運営していた同病院は、この流れを逆にチャンスととらえ、長期入院者の受け入れに傾いていったとみられる。首都圏の自治体にパンフレットを送り、「生活保護を受ける高齢者を紹介して」と“営業活動”を展開した。00年の介護保険制度導入で、首都圏の介護施設は満杯となり、神奈川県のある自治体職員は「身寄りのない生活保護受給者の行く先を探す自治体担当者が、最後に行き着くのは静和病院だった。助けられた自治体は多いはず」と明かす。
税金から支払われる生活保護費で入院費をまかなうという、病院の安定した収益モデルを作り上げる一方で、経費削減に異常なまでに力を入れた吉田容疑者の姿を指摘する病院関係者は多い。元職員によると、病院施設の壁などの修繕を事務職員が手伝わされるなど、その徹底ぶりはテレビ番組でも取り上げられたほどだった。
また、複数の病院関係者は毎日新聞の取材に対し、重症でない患者への過剰な薬剤投与や、不必要な検査を数多く受けさせるなど、より多くの診療報酬を得るための医療行為が日常化していたと証言。「患者を病室で裸にして風呂場まで行かせたり、認知症患者を車いすに乗せて廊下に並べて食事させた」など、患者への対応は二の次だったと証言する元職員もいる。
病院経営や医療制度に詳しい国学院大経済学部の中泉真樹教授(医療経済学)は、静和病院のような経営を「患者の受け入れ先を探す行政側と、入院者を確保して採算を取ろうとする病院側の動機がマッチした結果」と分析する。事件については「モラルハザード(倫理観の欠如)の典型だ」とし、医療ビジネスの行きすぎを防ぐためには、「コストがかかろうと、県などの公的機関による恒常的な監視が必要だ」と指摘している。