北陸3県の旅 魯山人の原点で和の美に浸る

1月17日18時54分配信 産経新聞

 北陸三県(富山、石川、福井)を2日かけてまわった。加賀温泉の一つ、山代温泉(石川県加賀市)では、山代とゆかりの深い北大路魯山人のアートと温泉の両方を楽しむのが最近の流行という。木彫りの世界が広がる「井波彫刻総合会館」(富山県南砺市)では彫刻のおあつらえも可能だ。福井を代表する曹洞宗大本山・永平寺(福井県永平寺町)で心静かに座禅を組めば、いつもとは少しだけ違う景色が見えたような気がした。(北村博子)

 JR大阪駅から特急「サンダーバード」に乗り、富山県の高岡駅で列車を降りる。雪化粧した山の中を車で走り、「五箇山(ごかやま)」の合掌造り集落を堪能した後で、木彫りの逸品が集まる「井波彫刻総合会館」を訪れた。高岡駅からは車で約30分ほどだ。富山県南西部に位置する井波の町は国内最大の木彫り産業地として知られ、彫刻士は200人を超える。館内には欄間のほか仏像や獅子頭などの置物が並ぶ。「古典的な彫刻依頼に加え、動物などをユニークに表現した表札の“おあつらえ”も、最近じわじわ人気です」。そう話すのは岩倉雅美館長(56)。家具や建具に洋柄をデザインするなど新しい発想も大歓迎という。井波彫刻は時代に逆行せず、流れに乗ることで伝統を守ってきた。岩倉さんは「今後も多方面の注文にチャレンジしていきたい」と意欲的だ。

 館内の一角、彫刻の実演コーナーでは、彫刻士の大野秋次さん(60)が何十種類もの彫刻刀を前に重量感のある欄間の制作に励んでいた。完成間近の欄間には富山の民謡「おわら風の盆」の風景などが盛り込まれていた。注文主と入念な打ち合わせの上でデザインしたというその作品は、ストーリー性があり、実に見応えのある大作だった。

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 JR金沢駅前のホテル金沢(金沢市)に宿泊し、翌朝は車で約10分の前田家14代の居城、金沢城を訪れ、城の裏口にあたる石川門などを見学。その後、金沢城から車を走らせ、約1時間で山代温泉に到着。ここが陶芸家、北大路魯山人の原点であることを知る人は少ないかもしれない。

 貧しい書家時代の魯山人は、宿の刻字看板彫りの仕事を与えられて滞在。当時、総湯(共同浴場)を囲む18軒のうち6軒の宿の看板をそれぞれ異なるタッチで彫り上げ、今も「あらや滔々(とうとう)庵」など一部の旅館で大切に保管されている。

 魯山人が過ごした旧吉野屋旅館の別邸が総湯の近くに残る。現在は魯山人寓居跡「いろは草庵」として、作品展示のほか作業場や書斎、いろりなどが当時の様子をしのばせる。魯山人は滞在中に出会った陶芸家、初代須田菁華から陶芸を学び、宿の主人たちと交流を深めるうちに料理も覚えたという。「傲慢(ごうまん)で自由人と伝わる魯山人ですが、山代ではそうではなかったようです」と学芸員の蔵本敬大さん(29)。山代は今後、和のアートで美意識が高まる温泉場としても人気を集めそうだ。

 北陸の冬の味覚であるズワイガニもぜひおさえておきたいところ。「ゆのくに天祥」(加賀市)に立ち寄り、甘みのあるカニ身を鍋、焼き、刺し身などで味わった。

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 その後車で向かった曹洞宗大本山・永平寺の境内では、黒色の薄いけさを身につけた若い雲水たちが清掃していた。いてつくような寒さにほおを真っ赤に染める雲水たちを見て、少しは自分の身を正そうと座禅体験をすることにした。

 足の組み方、手の位置、目線、姿勢など座禅の心得を教わり、壁に向かう。明かりが消えた静かな部屋に聞こえるのは、巡回する雲水の足音と衣ずれの音だけだ。気を抜くと棒で背中をたたかれる。これを「警策」というのだが、近くでパーンと激しい音が響くたびに体がビクッと反応する。緊張の連続だったが、しばしの間自分と向き合えた。

 また山縣洋典・伝道部講師の説法は、人と人とのつながりの大切さや自分のおごり、他人へのいたわりなどを説く内容で、日々の生活を見つめ直す良い機会になった。「ここは修行の場であるから豪華な装飾や仏像などの宝はないが、苦行に励む雲水たちこそが寺の宝です」という言葉が特に印象的だった。

 座禅を終えた帰り道、風景は一層美しく見え、日暮れの空には自分を支えてくれる人たちの顔が浮かんだ。

 【アクセス】 JR大阪駅から高岡駅まで「サンダーバード」で約3時間。3月31日までの「Japanese Beauty Hokurikuキャンペーン」中は、北陸エリアの各駅から主要観光地までタクシーでアクセスできる「駅から観タクン」の利用が便利。「井波彫刻の『お誂え』コース」や「永平寺コース」ほか11コースがある。問い合わせはJR西日本金沢支社((電)076・253・5222)。

 【井波彫刻総合会館】 木彫りの里創遊館の施設の一つ。営業時間は9時~17時、第2・4水曜休館。入館料500円(注文すれば無料)。実演は4月~11月のみだが、隣接する創遊館で通年行っている。問い合わせは(電)0763・82・5158。

 【いろは草庵】 入館料大人500円、高校生以下無料。営業時間は9時~17時、水曜休館。(電)0761・77・7111。

 【ゆのくに天祥】 18種の湯とカニ料理が楽しめる宿。「白雲蟹づくし」はカニ料理のほか薬膳スープ、カニ雑炊などがついて料金は1万1750円(入浴付)。(電)0761・77・1234。

 【永平寺】 拝観料は500円、小中学生200円。9時~17時(季節によって異なる)。座禅体験など詳しい問い合わせは同寺((電)0776・63・3102)。

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