能登半島沖の漁船拿捕:乗組員全員帰港 「おかえり」「ご苦労さま」--境港 /鳥取

2月10日16時1分配信 毎日新聞

 ◇岸壁に涙と歓声 拿捕から14日、異例の早さ
 「よく頑張った」「お疲れさま」――。ロシアに拿捕(だほ)され、解放された境港市の第38吉丸(安藤正史船長、10人乗り組み)は9日夕、家族や同僚らが待つ境港に帰港した。検疫などの手続きを終えて乗組員が姿を見せると、岸壁から拍手と歓声が上がった。極寒のナホトカで拘留されたためか、乗組員はいずれも疲れた表情。家族らを見つけると手を振って無事を伝えた。出港から17日目、拿捕から14日目の母港。過去の拿捕例と比べると、異例とも言える早い帰国となった。資源の枯渇が進むベニズワイガニは今後も、ロシアが主張する排他的経済水域(EEZ)との境界が入り組んだ“緊迫の海”での操業を強いられる。港では不安の声が高まっている。【小松原弘人、遠藤浩二】
 ■岸壁で
 境港の岸壁では、家族や会社の関係者ら約300人が乗組員を出迎えた。心配そうな面持ちの家族らは、接岸する漁船の後を追った。ロープを使った接岸作業が終わり船が停止すると、大きな拍手が沸き起こった。
 駆け付けた平井伸治知事は「何よりもお疲れさまでしたと言いたい。スピーディーに解決できてよかった。風呂につかっておいしい魚を食べ、愛する家族と疲れを癒やしてほしい」と話した。
 接岸から約30分後。検疫などの手続きを終えた乗組員らが疲れ切った表情で船から岸壁に降りた。迎えにきた家族らに肩を抱かれながら車に乗り込み、足早に港を後にした。
 ■家族「感謝」
 岸壁や乗組員の家では、家族らが一刻も早く元気な顔を見たいと焦がれた。安藤船長の妻(46)は「毎日心配していた。疲れていると思うのですぐに寝かせてあげたい」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。
 船越信弘漁労長の妻(63)は「社長、国や県の方たちが解放を最優先に考えて全力を尽くしてくれたおかげ。感謝の気持ちでいっぱいです。みんな、ストレスと不安で大変だったと思う。全員にご苦労さまと声をかけたい」と涙を浮かべた。
 乗組員の松本信行さん(50)の姉で長崎市に住む中ノ瀬弘子さん(53)は「今日は家族みんなでご飯を食べる。本人が希望するものを食べさせてあげたい」と話した。拿捕中は会社から毎日、電話で状況説明があったという。「心配だったが連絡があったのでありがたかった」と話した。
 ■水産団体
 水産関係団体でつくる境港水産振興協会(古徳義雄会長)は第38吉丸の拘留が長期化した場合に備え、12日の正副会長会議で政府などへの陳情を検討する予定だった。約2週間で帰国が実現したことに関係者は「とりあえずホッとしている」と安堵の表情を見せた。
 ベニズワイガニは一時期、年間3万トンの水揚げがあったが、近年は1万トン前後で推移。加工原料としては不足気味で、同港へ水揚げする12隻の1隻でも欠ければ打撃は大きい。第38吉丸の帰港で一安心という。
 ■境港市役所
 船越漁労長と同じ町内に住む中村勝治市長は「健康状態が心配だ」と気遣う。「今回は船舶電話が自由に使え、ロシアは比較的穏やかな対応だった印象だ。サハリンでの日露首脳会談が控えていることが影響したのかもしれない」と語った。
 ■“緊張の海域”
 ◇漁労長「違法操業していない」
 県内関係者によると、ロシア側は「ロシアのEEZに10カイリ(18・5キロ)入った海域で第38吉丸を発見し、境界から3・5カイリ(6・48キロ)の地点で拿捕した」と主張しているという。
 日吉水産側は当初「日本の海域での操業を終えて、休憩のため仮泊していてロシアのEEZに流された。日本の海域に戻ろうとして臨検を受け、拿捕された」と違法操業を明確に否定。岩田慎介社長も「違法操業ではないと確信している」と語った。ところが、日を経るとトーンが変化。乗組員と船体が解放された8日夜、岩田社長は「コメントを控えたい」と繰り返した。第38吉丸にはGPSによる船の位置の記録が残っており、操業海域は明確に分かる。船越漁労長は帰港後、「日本の水域と信じていた。ロシアでの違法操業はしていない」と違法性を否定した。
 拿捕された周辺は、ベニズワイガニの好漁場だが、日本のEEZ、日本と韓国が取り決めた日韓暫定水域が、ロシアの主張するEEZと接する“緊張の海域”。日本海かにかご漁業協会は、所属船に通知したロシア水域近くでの操業自粛を解除したが、漁の不安が消えたわけではない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA