<賃貸マンション>更新料、トラブル防ぐには 相次ぐ「無効」判決

9月8日11時8分配信 毎日新聞

 賃貸マンションの家賃の更新料は無効--。今夏、こんな判決が相次いだ。更新料や敷金、敷引きなどは貸主に慣習的に支払っているが、借り主とのトラブルは絶えない。秋の引っ越しシーズンを前に、現状やトラブル防止法などをおさらいしてみた。【清水優子】

 ◇徴収に地域差、借りる前に確認を

 8月27日、大阪高裁は賃貸マンションの更新料を「無効」とし、貸主に返還を命じた。借り主の男性(54)の請求を退けた1審からの逆転判決で、高裁が更新料返還を認めたのは初めてだ。判決によると、男性は00年8月、月4万5000円の家賃と、1年ごとに10万円の更新料を支払う契約で京都市内のマンションに入居。06年11月に退去するまでに支払った更新料は5回分50万円に上るという。

 「更新料は契約更新を拒む権利を(貸主が)放棄する対価」「賃料補充の性質もある」

 それが家主側の主張だった。しかし、判決は借地借家法を根拠に「貸主側は正当な理由がなければ自動更新を拒めず、借り主に更新料の支払い義務はない」と退けた。そのうえで「貸主側がそれを説明しておらず対等・自由な取引条件と言えない」とした。また賃料への補充という主張も「合理的根拠は見いだせない」と結論づけた。家主側は最高裁に上告した。

 ■100万戸超で徴収

 更新料は40年以上前から、首都圏や京都などで慣行化し、徴収物件は少なくとも全国100万戸以上とみられる。7月下旬には京都地裁の別の訴訟でも更新料の無効判決が出ている。京都産業大法科大学院の坂東俊矢教授(消費者法)は「慣習的な更新料を、高裁が『対価を法的に説明できないものは消費者契約法により無効』と判断した意義は大きい」と評価する。「各地の訴訟に影響を及ぼすだろう。貸主側が更新料のあり方を見直す契機になれば」

 「敷金」「敷引き」もトラブルになりやすい。敷金は賃料の滞納や部屋の補修などに使われ、関西や九州の一部では「保証金・敷引き」とも呼ばれる。ただ、敷引きは、契約書で差し引く額を決めているため、補修しなくても返らない。長年の商慣行で、地域によって徴収の有無や額もまちまちだ。

 ■主に関東で定着

 更新料や敷金の地域差は--。国土交通省は07年3月、財団法人・日本賃貸住宅管理協会員の934社にアンケートした=表<左><上>。更新料を徴収している業者は神奈川の90・1%を最高に、千葉82・9%▽東京65%▽埼玉61・6%▽京都55・1%--などで主に首都圏で定着している。

 一方、大阪、兵庫はゼロで、宮城でもほとんどない。平均徴収額は、京都が家賃の1・4カ月分で最も高く、北海道の0・1カ月分が最低だった。徴収理由(複数回答)は、(1)一時金収入=53%(2)慣習=50・4%(3)家賃が低い分の収入確保=21・4%(4)損耗(そんもう)の補修財源20・5%--などだった。一方、敷金の徴収率は愛媛(18%)と京都(58・5%)、埼玉(65・5%)を除いて7割を超え、兵庫は100%だった。

 ■納得して契約を

 08年度、国民生活センターに寄せられた賃貸住宅の敷金などをめぐるトラブルの相談件数は1万3789件で、ここ5年間は1万3000~1万4000件台で推移している。

 国交省住宅局は「契約時に業者が借り手にきちんと説明し、お互い納得して契約を結ぶのが重要」と言う。

 退去時、賃貸借契約で定めている「原状回復義務規定」も問題にされる。本来、畳の日焼けなど自然に生じた傷みの補修費は貸主負担が原則だ。「原状回復」は物件を新品の状態にして返す意味ではないが、いまだにリフォーム工事費やハウスクリーニング代などを請求する貸主がいるという。

 国交省のガイドライン=表<右><下>=があるが、トラブルは絶えない。弁護士で、東京経済大の村千鶴子教授がアドバイスする。

 「契約前に契約書の記載をきちんと確認する。傷み具合が自然の損耗の範囲内かどうかの判断は、人により異なるので、入居・退去時、家主の立ち会いで傷がある部分を中心に室内の写真を撮り、両者で確認するといい」

 それでも解決できない時は、消費生活センターに相談したり、手続きが簡単で迅速な「少額訴訟制度」の利用をすすめている。「本人手続きだけで訴訟ができ、通常裁判より費用も安い。方法は最寄りの簡易裁判所に聞けば教えてもらえる」

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 ◇原状回復の具体例

 ■貸主側負担

・畳の裏返し、表替え

・フローリングのワックスがけ

・家具の設置による床、カーペットのへこみ

・畳の変色、フローリングの色落ち(日照、建物構造欠陥による雨漏りなどで発生)

・たばこのヤニ(クリーニングで除去できる)

・テレビ、冷蔵庫などの後部壁面の黒ずみ

・壁に張ったポスターや絵画の跡

・借り主が設置したエアコンによるビス穴

・日照など自然現象によるクロスの変色

・ポスターやカレンダーなどを壁に掛けるための画びょうやピンなどの穴

・破損していない程度の網戸の張り替え、浴槽、風呂釜などの取り換え

・専門業者による全体のハウスクリーニング

 ■借り主負担

・カーペットに飲み物などをこぼし、手入れ不足で生じたシミ、カビ

・ふき掃除で除去できない冷蔵庫下のサビ跡

・引っ越し作業で生じた引っかき傷

・雨が吹き込むなど借り主の不注意が原因のフローリングの色落ち

・キャスター付きの椅子などによるフローリングの傷、へこみ

・手入れが悪く台所に付着したすすや油汚れ

・結露を放置したことで拡大したカビ、シミ

・重い物を掛けるため壁などに開けたくぎ穴、ネジ穴(下地ボードの張り替えが必要)

・天井に自分が付けた照明器具の跡

・ペットが付けた柱などの傷

・清掃、手入れを怠り生じたガスコンロ置き場や換気扇などの油汚れ、すす

・清掃、手入れを怠り生じた風呂、トイレ、洗面台の水あか、カビなど

 =国交省のガイドラインから抜粋

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都道府県  更新料    敷金    礼金

北海道  28.5  81.3   5.8

      0.1   1.4   1.0

宮城    0.2  89.1  56.7

      0.5   0.8   0.7

東京   65.0  70.3  57.5

      1.0   1.6   1.4

神奈川  90.1  84.5  66.1

      0.8   1.6   1.3

埼玉   61.6  65.5  60.7

      0.5   1.6   1.0

千葉   82.9  89.4  57.3

      1.0   1.6   1.2

長野   34.3  89.9  49.2

      0.5   1.0   0.5

富山   17.8  88.2  72.8

      0.5   2.2   0.5

愛知   40.6  72.8  41.8

      0.5   2.7   1.1

京都   55.1  58.5  17.6

      1.4   3.4   1.6

大阪    0    72.0  53.3

      -     3.2   2.6

兵庫    0   100     8.0

      -     3.7   3.2

広島   19.1  87.7  24.7

      0.2   3.2   1.3

愛媛   13.2  18.0   1.3

      0.5   3.0   0.5

福岡   23.3  93.1   0

      0.5   3.3   -

沖縄   40.4  82.7   61.9

      0.5   1.5

 ※有効回答は16都道府県の175社。数字の上段が物件の割合を示す徴収率、下段が家賃の何カ月分かを表す平均額=国交省、07年調査

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