「座敷わらしの宿」として全国的に知られる岩手県二戸市の金田一温泉「緑風荘」(五日市和彦さん経営)が4日夜全焼した火災で、県警二戸署や二戸消防署は5日朝から現場検証を開始。詳しい火災原因を調べているが、複数の宿泊客や目撃者の話から、浴室用のボイラーの過熱が火災につながった可能性が出てきた。
現場近くに住む目撃者は「浴室から最初に火が上がった」と話し、宿泊客で火災直前まで入浴していた男性も「火災直前に浴室横のボイラーから激しく蒸気が出た」と当時のもようを説明した。「3日から連泊したが4日夕は湯が熱すぎるので『変だね』と話していた」と証言する女性客もいた。
二戸署によると、出火当時、旅館内には21人の宿泊客と9人の従業員がいたが、男性客1人が避難時に足に軽いねんざをしたほか、全員無事だった。しかし、昭和20年代から温泉街を支えてきた老舗旅館は一瞬にして、そのほとんどを消失した。
近所の人たちも「激しい音で外に出たら、ものすごい火柱が上がり、火の粉が花火のように降ってきた」「2キロ以上先の自宅からも火柱が見えて恐ろしかった。延焼しなかったのが信じられないくらい」と、火災の激しさを振り返った。
緑風荘の最大の名物は、柳田国男の「遠野物語」に登場するなど各地に言い伝えがある「座敷わらし」が出るとされる大部屋「槐(えんじゅ)の間」だ。
目撃談や宿泊後に成功したという多数の著名人のエピソードなどから人気で、「3年先まで予約が入っている」(地元の旅館関係者)という。
4日夜、この部屋に泊まっていたのは、名古屋や神奈川県から14人で来ていたグループ。出火に気づいた神奈川県藤沢市の岡西創(はじめ)さん(35)が、疲れて「槐の間」で寝ていた他のメンバーをたたき起こし、着の身着のままで旅館を飛び出し、ワンボックスカー2台に分乗して避難したという。岡西さんその際、激しく燃え上がる火災の写真を撮影した。
妻の智美さん(36)は「座敷わらしを見たくて3年前に予約した。何か起こると思いながら泊まったが火災に遭うとは…。でも全員無事だったのは座敷わらしのおかげかもしれない」と話した。
宿泊客らは近くの旅館「おぼない」に避難。同旅館のおかみ、大津勢子さん(71)は、「とにかく緑風荘さんのお客さんに不自由がないようにと受け入れた」としたうえで、「温泉街は宿泊客が減り厳しいが、各旅館がサービスや内装に工夫を凝らしていた時期だっただけに、座敷わらしで有名になった緑風荘さんの火災はお気の毒だし温泉街にとっても残念だ」と話した。