2月19日8時4分配信 産経新聞
東京都内のレストランを星の数で格付けして話題となったフランスのミシュランが、来月出版する旅行案内書「ギドベール」(緑のガイド)日本版「グリーンガイド・ジャポン」で、富士山を含む国内17の観光地に“三つ星”をつけた。最上級の格付けを受けた富士山の山梨県側は経済効果をもくろみ「世界にインパクトを与えられる」と歓迎するが、喜んでもいられない。三つ星を維持する責任があり、当地に新たな緊張感が生まれている。(牧井正昭)
ミシュランの三つ星評価に、富士山麓(さんろく)・富士吉田市の堀内茂市長は「下向きというか閉塞(へいそく)感が漂う(経済状況の)中で、地元の自信や元気につながる」とタイムリーな格付けを歓迎。観光面で新たな海外戦略を打ち出す構えだ。
ミシュランの評価には権威を裏打ちする9つの基準として(1)第一印象(2)知名度・人気(3)旅行のしやすさと利便性(4)旅行者の受け入れ姿勢-などがある。
昨年5月にミシュラン記者が現地の富士山麓を取材している。名物「吉田のうどん」店では「湯もりうどん」を食した。湯もりはだし汁でなく釜湯をかけただけ。理由を「富士山を信仰する人たちはおなかの中から白く清め、富士山に登る」と住民から聞き、歴史的グルメであることを納得したという。
肝心なのは、富士山がどう評価されたのか。日本ミシュランタイヤ広報部によると、記者たちは国内約200カ所を歩き、「富士山が観光地として基準を満たしたことは確か。12人の専門家が最終評価してますが、ギドベールの発刊を楽しみに待ってほしい」と話すにとどまり、評価内容を明らかにはしない。だが、三つ星は「わざわざ訪れる価値がある場所」とし、「近くにいれば寄り道して訪れるべき場所」(二つ星)、「興味深い場所」(一つ星)との明確な違いを説明する。「わざわざ…」との評価は当地に経済効果を期待させるが、2、3年後には再取材もする。
ミシュランの国内取材で全面協力した日本政府観光局(JNTO)は、「(ギドベールの)星は見逃せない観光地をひと目でみつけることができる目印」と位置づける。日本の文化や生活の知恵も紹介し、日本を旅するうえで役立つヒントが盛り込まれているという。
富士五湖観光連盟(山梨県)の堀内光一郎会長は「だから富士山が三つ星を獲得したことは大いに価値がある。富士山の美しい自然や歴史、文化を多くの外国人旅行者が訪れて世界に紹介することで(富士山に新たな認識が生まれ)富士山の世界文化遺産登録の後押しになる」と話し、経済効果以外でもミシュランの影響力に期待する。
三つ星に選ばれた国内17カ所には京都、奈良、伊勢・志摩などのほか、屋久島(鹿児島)、白川郷(岐阜)といった世界遺産が含まれている。
一方、せっかくの三つ星も2、3年後の再取材で星数を落としては当地にとって逆効果といえる。山梨県観光部国際交流課は、国土交通省が提唱する訪日外国人旅行者を2010年に1000万人の大台に乗せるための方策として、三つ星の質を落とさぬ努力が必要との見解を示した。
富士吉田市の富士山課担当者は「とにかく発刊を待って内容を分析してから対応したい。当地に不慣れなフランス人のかゆいところに手が届くようグリーンガイドをフォローするプラスアルファの情報をネットで提供したい。富士山情報もふんだんに盛り込みたい」という。
JNTOによると、2008年の訪日外国人旅行者(835万人)のうちフランス人は14万8000人。昨年、富士山観光の玄関口、富士急行線河口湖駅前の観光案内所を訪ねた外国人は約2万人。このうちほとんどが中国、台湾、香港のアジア系だが、フランス人も約1割と多い。5月にはヨーロッパ生まれのスポーツイベント「オリンピアード」が富士河口湖町を中心に開かれる。
「期待を裏切らないもてなしで歓迎することが今後につながっていく」。同町観光課が話すように、観光業者を対象にしたもてなしの質を高めるセミナーも早くも開催されている。オリンピアードでは、来日するフランス人などからギドベールの評価を再確認するためアンケート調査を行うという。積極的な海外戦略が功を奏するのか、見守りたい。
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【用語解説】ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン
3月16日にフランス語が翻訳出版、9月には英語版も出る。1月末に主な三つ星17カ所をJNTOを通じて発表した。案内書では観光地の歴史・文化のほか地図・案内図・見どころ、予算に合わせ選べるホテル、レストランや旅館などではスリッパの使い方や温泉の入り方なども紹介するようだ。