2月6日13時13分配信 産経新聞
日本郵政が全国の「かんぽの宿」をオリックス不動産へ109億円で一括売却することに鳩山邦夫総務相が異を唱えた問題は6日、売却が白紙撤回されたことで混迷の度を深めている。疑念は、全70施設の中に建設費約286億円の宿泊・健康増進施設「ラフレさいたま」(さいたま市)も含まれていたことに集まっている。渦中のラフレで、温泉につかりながら考えてみた。
JRさいたま新都心駅から徒歩5分。銀色に輝く円柱形の8階建てと15階建ての高層ビルが組み合わさった斬新な建物が見えてきた。隣は大規模郵便局で、周辺では郵便配達のバイクが走り回っていた。
エントランスは5階まで吹き抜けのゴージャスなつくり。2~5階は和食や中国料理、バーをはじめ大小の宴会場や結婚式場がそろう。6~8階は温泉クア「彩の国さくらそう温泉」と温水プール、フィットネスクラブ。1200円を支払って温泉と温水プールへ入ると、ナトリウム泉で少ししょっぱい。水着を着て入る温水プールでは中高年の男女70人ほどが洋楽に合わせ水中運動のレッスン中。禁煙も徹底され、確かにここにいると健康が増進しそうだ。
風呂上がりに最上階15階のレストラン「レガーロ」へ立ち寄った。イタリア語で「贈り物」の意味で、晴れた日には新宿副都心や富士山までが見渡せるという。白身魚のソテーや海鮮菊花シューマイなどのバイキングランチは2200円とお得感があるが、味の方は記者の舌では判断できなかった。
ラフレは平成12年の開業。年間約100万人が利用しているが、昨年度は2億5800万円の赤字だったという。日本郵政は「立派に見える通り維持費がかかる」(報道担当)と説明する。旧簡易保険福祉事業団が「健康増進センター」として建設したもので、いわゆる「かんぽの宿」ではない。ところが今回、全国のかんぽの宿・かんぽの郷(さと)計69施設とともに一括売却に含まれていたのだ。
埼玉県の上田清司知事は1月27日の記者会見で、「ラフレだけで100億~150億円の価値があり、オリックスの応札価格以上だ。日本中のかんぽの宿は“おまけ”で、ラフレで勝負したのではないかと思いたくなる」と指摘した。
鳩山総務相が問題視したのは、売却先がオリックスであることだった。オリックスの宮内義彦会長(73)は平成8年に政府の「規制緩和小委員会」の座長に就任して以来、10年間にわたって、規制緩和・民営化を推進する歴代委員会・会議の委員長・議長を務めた。鳩山総務相は「オリックスへの一括売却は、法的に問題はなくても、国民に『できレース』と受け取られかねない」と疑問を投げかけた。
かんぽの宿だけではない。一連の規制緩和・民営化は、医薬品の一部がコンビニ店で買えるようになったり、航空やタクシーへの新規参入が可能になるといった改革が実現した。その一方で、派遣労働者の製造業への派遣解禁や、耐震強度偽装事件で問題化した建築確認検査の民間開放など、その後に問題が噴出している。
こうした政策決定へ民間人が参画するあり方は、当時、「同じ民間人が何年も務めるのはいかがなものか」「労働者のことも議論するのに労組代表者が入っていない」などと批判された。内閣府は人選について「政治的なところで決まっており、『総理の指名』としか言いようがない」と説明していた。
法政大の五十嵐仁教授(57)=労働問題=は「宮内会長のオリックスは、タクシー用自動車のリース業など規制緩和・民営化によって新たに生まれたビジネスへ参入して急成長してきた。かんぽの宿もそうした既得権益ならぬ“新得権益”の一つに過ぎない」と話す。
宮内会長は小泉純一郎首相の退任に合わせ、18年9月に首相の諮問機関「規制改革・民間開放推進会議」の議長と委員を辞任した。同会議は「規制改革会議」(議長・草刈隆郎日本郵船会長)と組織を変えて、現在も続いている。
鳩山総務相の「できレース」発言について宮内会長へ取材を申し込んだところ、オリックス社長室はオリックスグループの見解として、「オリックス不動産は今回の一入札業者に過ぎない。日本郵政と総務省とのいわば内部問題かと思われるので、特にコメントする立場にない」と文書で回答を寄せた。