12月10日11時1分配信 毎日新聞
◇最初の1週間、小5「僕」の視線で
「余震は一晩中あるし、お腹(なか)がすいて眠れない」――。東海地震が起きた瞬間から最初の1週間をどう生き抜くか。ある4人家族の小学校5年の「僕」の視線で描写した絵付きの物語が、伊豆の国市広報誌12月号に掲載されている。体験談のような迫力に満ち、随所に基本動作のかぎが埋め込まれている。【安味伸一】
◇秘書広報課の夏目さん、取材・執筆
「もしも地震が起こったら」と題し、表情豊かな絵も目を引く。役所の広報誌としては型破りな軟らかさだ。文と絵を書いた秘書広報課の職員、夏目健次さん(34)は「子供にも分かるように防災を伝えたい」と、数カ月前から準備を進めた。新聞やテレビ報道、県の資料のほか、新潟県中越沖地震で被災し、伊豆の国市に移り住んだ市民に取材した成果も取り入れて創作した。
物語では、母親が夕食の天ぷらを揚げている時に地震が発生。激しく揺れ、家が火事になり、消防車が間に合わず近所の人たちがポンプで消火する。母親とおじいちゃんと3人で避難所に向かうが、体育館は満員で毛布をかぶってグラウンドで一夜を明かす。
「静岡県全域が壊滅状態」とラジオのニュース。父親は伊豆箱根鉄道が不通となったため、仕事先から線路上を歩いて帰宅するが、張り紙を見て避難所に行き着く。市の給水車は発生から4日後に到着、発生1週間後に自衛隊が風呂を作ってくれた。
おじいちゃんが用意していた「非常持ち出し袋」、父親と連絡を取ったNTT災害用伝言ダイヤル「171」や気象庁の「緊急地震速報」をはじめ、防災や避難のポイントをさりげなく盛り込んでいる。
特集記事は8ページにわたって掲載されている。発生直後にたんすが倒れめちゃめちゃになった居間の絵は、夏目さんが自宅を題材に想像した。消火の場面は市内で行われた防災訓練、避難の様子などは報道写真を参考にパソコンのソフトを活用して描いた。物語は、おじいちゃんが「生きてさえいれば、まちもまた生き返る」と希望を語り、「僕」が笑顔になって終わる。
「地震が発生したら行政は当然ベストを尽くします。市民も覚悟して自分たちでできる備えをし、危機感を持っていただきたい」と夏目さん。1万7000部印刷し、市内の各世帯などに配布した。市のホームページでも閲覧できる。【安味伸一】